異伝 《火柱の原因》
グツグ火山にナイが最初に訪れた時、グマグ火山以上の熱気を感じていた。しかし、隕石が落ちた後のグツグ火山はまるで死火山と化したように気温が急激に下がり、火口は隕石が落ちてきた時の影響で巨大なクレーターが出来上がってマグマも溢れていなかった。
「ナイさんが倒した漆黒のゴーレムとやらは隕石の落下で環境が変化した事により、突然変異で誕生したゴーレムです」
「ちょっと待って!!でも、グツグ火山には数え切れないぐらいのマグマゴーレムがいたよね?それならどうして僕が発見したゴーレム以外に他に見当たらなかったの?」
「恐らくは隕石が落ちてきた時に火口に集まっていたマグマゴーレムは殆どが吹き飛んだはずです。この資料によると隕石が落ちた時に巨大な火柱が火口から打ちあがったんですよね?」
「うん、そうらしいけど……」
ナイは実際に見たわけではないが、グツグ火山に暮らしていた鍛冶師達やゴノの街の城壁を警護していた兵士達はグツグ火山に隕石が落ちた際、火口から途轍もない規模の火柱が上がったのを確認している。
「恐らくですが、その火柱の原因はグツグ火山の火口に存在したマグマゴーレムが原因です。隕石が落下してきた際に発生した衝撃でマグマゴーレムの肉体が吹き飛び、体内の核が刺激されて膨大な火属性の魔力が噴き出した。しかも数百体のマグマゴーレムが一斉に吹き飛んだとなれば膨大な魔力が火口に溢れかえったはずです」
「じゃあ……その火山で発生した火柱は隕石の落下でくたばったマグマゴーレムの肉体から放たれた魔力かい?」
「そうとしか考えられませんね。それに爆発したのはマグマゴーレムだけとは限りません。火口付近には良質な火属性の魔石の原石も大量にあるはずですから、それも巻き込んで爆発したんでしょうね」
「魔石の原石……」
イリアの仮説では大勢の人間が確認したグツグ火山の「火柱」の原因は、隕石落下による衝撃で火口付近のマグマゴーレムと火属性の魔石が爆発し、その際に発生した大量の火属性の魔力が偶然にも「火柱」のように天高く打ち上げられたという。
幸運だったのは普通の火山の噴火とは異なり、火属性の魔力で構成された火柱は時間経過によって完全に消えてなくなる。そのお陰で火山の周辺地域は大きな被害はなかったが、隕石の落下が原因なのか現在のグツグ火山は以前ほどの熱気を失い、今では死火山と化した。
「あ、そういえば隕石が落ちた場所の魔石が全部色を失ってたんだけど……それも隕石が落ちた時の影響かな?」
「え?なんですかそれ?」
「どういう事だい?」
ナイは隕石が落下したグツグ火山の頭頂部に訪れた時、魔力を失われた状態の魔石の原石を大量に発見した事を報告する。イリアとアルトはその話を聞かされて不思議そうに首を傾げた。
「う〜ん……イリアの仮説が正しければ隕石が落下した時に火口付近の魔石は爆発して跡形もなく飛び散っているはずだ」
「もしかしたナイさんが見たのは隕石落下の際に飛び散った魔石の破片が埋もれていただけかもしれませんね。他に考えられる事があるとすれば地中内に残っていた魔石を誰かが掘り起こしたとか……」
「堀り起こした?誰が何の目的で?」
「そこまでは分かりませんよ。でも、仮に掘り起こした人間が居たとしてもナイさんが発見した魔石の原石は色を失っていた……つまりは魔力だけが抜き取られた状態で放置されていたんですよね?そうなると魔石を掘り起こした人物は魔力を吸収する術を持ち合わせていた事になりますが……」
「待て待て、話が脱線しとるぞ!!今は肝心なのはこの二つを調べ上げる事じゃろう!!」
アルトとイリアの話を聞いていたハマーンが口を挟み、彼がナイ達を連れてきたのは新種のゴーレムから回収した素材を調べ上げるためだった。ハマーンとしては新種のゴーレムの生態よりも、ゴーレムから手に入れた金属の塊と黒水晶を徹底的に調べ上げる事が重要だった。
「坊主の旋斧の素材は隕石が落ちてきた時に手に入った素材と、なんらかの魔法金属と組み合わせた特殊合金だとした場合、この旋斧を調べ上げればどの魔法金属を利用したのか調べる事ができるかもしれん。ということでしばらくの間、この儂に旋斧を預けてくれんか?」
「えっ……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!その大剣はナイ君のお義父さんの形見なんですよ!?」
「分かっておる!!しかし、あの伝説の鍛冶師がどのようにしてこの魔剣を作り上げたのか儂は知りたい!!勿論、壊す様な真似はせん!!相応の礼も用意する!!だから頼む、貸してくれ!!」
「師匠!?」
ハマーンはナイに土下座を行い、そんな彼の姿に全員が驚愕する。彼の熱意を受けたナイはしばらく考えた末に旋斧を託す事を決める。
「わ、分かりました……そこまで言うなら貸します」
「おおっ……礼を言うぞ!!調べ終わったら必ず返す!!」
ナイの言葉を聞いてハマーンは立ち上がり、彼と熱い握手を行う。そんなハマーンにナイは苦笑いを浮かべ、当分の間は旋斧は彼に預ける事にした――
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