異伝 《環境適応能力》
「ふむ、こうして並べてみる限りではとても同じ金属とは思えん。だが、これらは全く同じ能力を持っておる。無関係とは言い切れん」
「どういう事ですか師匠!?」
「うわっ!?アルト、居たの!?」
「王子!?」
「えっ、王子様!?」
「い、何時から居たの!?」
何故か工房内には半袖姿のアルトも存在し、彼は興奮した様子で机の上の旋斧と二つの素材を覗き込む。何時の間にかアルトが入り込んでいた事にナイ達は驚く。
「どうしてアルトがここに……」
「ナイ君、久しぶりだね。元気にしてたかい?僕は最近、暇がある時はここへ来てるんだ」
「うむ、儂の仕事を手伝って貰っておる」
アルトはハマーンを師匠と慕っており、彼は王子でありながら将来は魔道具の職人を目指している。そのために彼だけは特別にハマーンの工房に入る事が許されていた。
思いもよらぬアルトの登場にナイ達は驚かされたが、ハマーンは彼が来た事に特に気にせず、それどころか自分の仕事を手伝わせる。
「グツグ火山の鍛冶師共の言う通り、恐らくはこの旋斧はかつて隕石が落ちてきた場所に発見された金属が利用されておる」
「何だって?じゃあ、旋斧の素材は隕石だとでもいうのかい!?」
「いいや、正確に言えば隕石が落ちた事で突然変異を引き起こしたゴーレムの素材から作られておる」
「えっ……ど、どういう意味ですか?」
ハマーンの説明を聞いてヒナは首をかしげると、ここでアルトが羊皮紙を用意して文字を書き込む。彼が書いたのはゴーレム種の資料であり、羊皮紙にはこれまで発見されているゴーレムの種類と特徴が記されていた。
「これを見てくれ。ゴーレムと言っても様々な種類が存在する事は知っているだろう?例えば山岳地帯に生息する「ロックゴーレム」火山などの地帯に生息する「マグマゴーレム」他にも砂漠地帯に生息する「サンドゴーレム」後は大型種の「ゴーレムキング」こうして書いてみると結構な種類があるだろう」
「言われてみればそうだね……」
「ドゴンちゃんもゴーレムなんだよね?」
「ああ、といっても彼の場合は人造ゴーレムなんだが……」
アルトに服従している人造ゴーレムのドゴンは人為的に作り出したゴーレムであり、野生種のゴーレムとは大きく異なる。しかし、先にアルトが告げたゴーレム種には共通の弱点が存在する。
「人造ゴーレムは例外として……ゴーレム種は基本的に「水」に弱い。彼等は水やあるいは水属性の魔法を受けると身体が泥のように変色してしまう。岩石並の外殻を持っていても水を浴びた箇所は溶けてしまう」
「ああ、それは有名だね」
「でも、ナイ君が発見したという新種のゴーレムは水属性の魔法を浴びても平気だった。これは普通なら有り得ない事なんだよ」
新種のゴーレムの情報が記された資料を読みながらアルトは考え込み、ナイがグツグ火山で発見した新種のゴーレムはこれまで発見されたゴーレム種とは明らかに異質な存在だった。
人造ゴーレムを除いたゴーレム種は例外なく「水」という弱点が共通しているにも関わらず、隕石が落ちたグツグ火山で誕生した新種のゴーレムはナイの水属性の魔法攻撃を受けても平気だった。その理由がナイが回収したゴーレムの「核」と「黒水晶」が関係しているのは既に判明している。
「ナイ君が倒したゴーレムの核……これは外部から魔法攻撃を受けた場合、魔力を吸収する。そして核の他にゴーレムの体内に埋め込まれていた黒水晶はその吸収した魔力を蓄積する事ができる」
「魔法の力を吸収するゴーレムか……敵としてはこれ以上に厄介な奴はいないね」
「でも、どうして隕石が落ちてきた場所にそんなゴーレムが生まれたのかしら?」
「それはゴーレムの環境適応能力の高さが原因だろうね」
「えっ?環境……なに?」
アルトの言葉にナイ達は首を傾げ、彼が詳しく説明を行おうとした時に何処からか新しい女性の声が響く。
「環境適応能力……分かりやすく言えば環境に適応するまでの力です」
「うわっ!?だ、誰!?」
「その声は……イリアさん!?」
「なんじゃ、お主もおったのか?」
何時の間にか工房内にはイリアも入り込んでおり、彼女は用意されていた資料を読み取って状況確認を行う。この工房にはハマーンが許可した人間しか立ち寄る事は許されていないが、イリアはそんな事は気にせずにアルトの代わりに説明を行う。
「ゴーレムは環境に適応する事で姿や能力が変わるんです。例えば山岳地帯に生息するロックゴーレムは岩石に擬態する事で自然に溶け込みます。マグマゴーレムの場合は溶岩のように肉体が変質して高熱を発する能力を得ます。砂漠に生息するサンドゴーレムは肉体を砂のように変異させる力を持つように、ゴーレム種は環境によって姿や能力を変異させる力を持ちます」
「それが環境なんちゃら能力かい?」
「環境適応能力です。要するにナイさんが戦った漆黒のゴーレムは隕石が落ちてきた事でグツグ火山の環境が変動し、その影響で誕生した新種のゴーレムという事ですよ」
「環境の変化……」
イリアの言葉にナイは心当たりがあり、前に飛行船で訪れた時と比べてグツグ火山の気温が大きく変動していた。
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