異伝 《英雄の帰還》
「――おう、坊主。ここにおったのか」
「ハマーンさん!?運転は大丈夫なんですか?」
飛行船に乗り込んだナイ達を出迎えたのはハマーンであり、彼は飛行船の運転を任されているはずだがわざわざ迎えに来たのかとナイは驚く。
「今は整備中じゃ。飛行船が飛び立つまでもう少し時間が掛かる。それよりも儂に見せたい物があると聞いたが……」
「そうでしたわ。ナイさん、例のあれを……」
「あ、はい……どうぞ」
ナイは先日に自分が倒した「新種のゴーレム」から入手した「金属の塊」と「黒水晶」を差し出す。これらの素材はグツグ火山の鍛冶師達が調べたが、判明した事はこの二つを組み合わせる事で「魔力吸収」「吸収した魔力を蓄積」させる事しか分かっていない。
ハマーンは二つの素材を受け取ると興味深そうに眺め、グツグ火山の鍛冶師達が書き記した資料を読んで頷く。王国一と呼ばれる彼でも始めて見る素材らしく、興味深そうにハマーンは金属の塊を持ち上げる。
「なるほど、これが隕石が落ちた場所に現れた新種のゴーレムの……」
「グツグ火山の鍛冶師さんの話によると僕の旋斧と関りがあるかもしれないと言ってたんですけど……」
「うむ、その辺は王都に戻ってから詳しく調べる必要があるな」
ナイの言葉にハマーンは頷き、彼は急いで飛行船の整備を終わらせて王都に存在する自分の鍛冶屋に戻る事にした――
――飛行船は何事もなく無事に王都へ到着すると、造船所の前にはナイを迎えに大勢の人間が集まっていた。その中にはなんと国王の姿もあり、ナイ達が飛行船から降りてくると全員が拍手しながら迎え入れる。
「よくぞ戻ってきてくれた!!我が国の危機をまたもや救ってくれた英雄に拍手を!!」
『うおおおおっ!!』
国王の言葉に大勢の兵士や騎士達が拍手を行い、そんな彼等の対応にナイは驚きながらも船から降りると、真っ先に国王が駆けつけてナイと握手を交わす。
「よくやってくれた!!お主はこの国の宝じゃ、すぐに王城へ戻って新しい勲章を授与したい!!」
「えっと……」
「陛下、英雄殿が困っておるぞ。それに勲章の授与は後にしてくれ」
予想外の国王の反応にナイは戸惑うと、彼の後ろからハマーンが訪れて国王に口を挟む。国王はハマーンの言葉に自分が興奮し過ぎたと悟り、咳払いして他の者も労う。
「おおっ、ハマーン技師よ。わざわざ忙しい所を迎えに行かせて悪かったな。ドリス、それに黄金級冒険者達よ。お主達も見事に役目を果たしてくれた」
「「「ありがとうございます」」」
3人は国王の言葉を聞いて頭を下げると、流石に相手が相手だけにガオウも失礼な態度は取れず、大人しく礼を言う。その間にナイはハマーンに腕を掴まれ、国王に何か言われる前に早々に立ち去る。
このまま残れば国王が次に何を言い出すか分からず、その前にハマーンはナイを連れて自分の鍛冶屋へ向かう事にした。そんな彼等の行動に気付いた他の者も後に続く。
「ナイ、あんたまたやってくれたそうだね。本当に大した男だよ」
「あいたっ!?」
「ナイ君!!やっと会えたね!!」
「久しぶりね、無事に戻ってきてくれて良かったわ」
テンはナイの背中を叩き、モモは嬉しさのあまりにナイに抱きつく。ヒナもナイが無事に戻ってきてくれた事に嬉しく思うが、そんな彼女達を押し退けてハマーンは自分の鍛冶屋に向けてナイを連れていく。
「感動の再会の所悪いが、今は急いでるんじゃ。坊主が陛下に連れ出される前に儂の鍛冶屋へ移動させねば……」
「何だい爺さん、ナイに何か用事があるのかい?」
「正確に言えば坊主の旋斧を調べねばならん」
「えっ……?」
「ど、どういう意味ですか?」
「説明している暇も惜しい、ほれ行くぞ!!」
ナイと共にテン達も同行してハマーンの鍛冶屋へと向かい、造船所は工場区に存在するためハマーンの経営している鍛冶屋からはそれほど遠くない。
道中は特に何も起きず、目的地であるハマーンの鍛冶屋に辿り着くと、彼は自分の工房にナイ達を案内する。本来、ハマーンの工房は滅多に彼以外の人間の立ち入りを禁止しているが、今回ばかりは特別にテン達も中に入れてもらう。
「へえ、ここが爺さんの工房かい?いかにも古い時代のドワーフの工房といった感じだね」
「何だか……年季を感じさせるわね」
「わあ、いろんな魔石が置いてある〜」
「こりゃっ!!勝手に触るでない、下手に触れたら大変な事になるぞ!!」
ハマーンの工房をテン達は珍しそうに眺める中、ナイはハマーンに腕を掴まれて大きな机の前に移動させられる。ちなみに机の大きさはドワーフ用に設計されているため、人間が扱うには適していない。
「ほれ、まずはお主の旋斧をここへ並べてくれ」
「こうですか?」
ナイは言われるがままに机の上に旋斧を並べ、その横にハマーンはナイから事前に受け取った金属の塊と黒水晶を並べる。こうして並べてみると旋斧と二つの素材は色合いが違く、とても同じ金属は思えない。
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