異伝 《アンの誤算》

――同時刻、ゴノの城壁の上では一人の女兵士が双眼鏡を思わせる形の魔道具を利用して外の様子を確かめていた。彼女はナイとトロールの群れの戦闘を一部始終見ており、冷や汗を流しながらも舌打ちする。



「あれが貧弱の英雄……噂以上ね」



警備兵に化けていたアンは自分が何年も育て上げたトロールの群れが、ナイの手で瞬く間に倒された事に衝撃を受けていた。王都から「貧弱の英雄」なる存在がゴノに訪れている事は知っていたが、まさかここまで強いとは夢にも思わなかった。


トロールの群れがゴノに襲撃を仕掛けようとしたのはアンの指示であり、彼女は既にゴノの街に「黒狼騎士団」や「黄金級冒険者」が警護している事は知っていた。その中でも「貧弱の英雄」は王都で最も有名な武人と聞いていたため、彼女はどの程度の実力者なのか確かめるためにトロールの群れを仕掛ける。



(まさか私の僕が手も足も出ないなんて……あれはもう)



自分が育て上げたトロール達がナイに手も足も出ずに敗れる姿を見て彼女は悔しく思い、その一方でトロールが殺された事に悲しみの感情は一切抱かない。トロールが殺されたところで今のアンにとっては特に痛手はない。



(あのがここに居る限り、この街を襲うのは避けた方がいいわね)



ナイの強さを確認する事ができただけで大きな収穫であり、アンは早急に正体が気づかれる前に街から離れる事にした。彼女がトロールを街に仕向けたのは貧弱の英雄と呼ばれるナイの実力を確かめるためだけで、目的を果たした以上はここに残る理由はない。



(この国を壊すためにはあの英雄を何とかしないといけない……そのためにはやはりあれを育て上げる必要があるわね)



今の自分が従えている魔物だけではナイを倒すに戦力が足りないと判断したアンは、早急にこの場を離れて新しい魔物を加えるために行動に移る。生半可な力を持つ魔物を捕まえて育て上げた所でどうしようもなく、彼女は英雄を殺せる程の力を持つ魔物を探す事を決めた――






――それからしばらく時間が経過すると、ゴノの街に飛行船が辿り着く。飛行船には王都から派遣された兵士達が乗り込み、彼等と交代という形でナイ達は飛行船に乗り込む。



「では後の事は任せましたわ」

「はっ!!この街の警護はお任せください!!」

「ふうっ、これでやっと王都へ戻れるな」

「良かった……皆は元気かな」

「ウォンッ!!」



ゴノの警護は王都から派遣された兵士達に任せ、ナイ達は遂に王都へ帰還できる。王都へ戻り次第に論功行賞が行われる予定のため、戻ってもすぐに身体を休めるのは難しそうではある。


それでも久々に王都へ戻れる事にナイは嬉しく思い、他の仲間と早く会いたいという気持ちを抱きながらナイは飛行船に乗り込む。しかし、この時にナイは誰かに見られているような気分を味わい、不意に後ろを振り返った。



「……?」

「どうかしました?」

「忘れ物か?早く取りに行ってこい」

「何か気になる事でも?」

「いや……気のせいでした」



ナイが立ち止まった事に他の者は不思議そうに尋ねると、ナイは首を振って飛行船に乗り込む。しかし、この時に飛行船に乗り込んだのはナイ達だけではなく、小型の鼠のような生き物が入り込んできた。



「チュチュッ……」



その鼠型の魔獣は飛行船に乗り込むとナイの後を追いかけ、誰にも見つからないように気を付けながらナイの行動を監視する――






※不穏な気配が漂ってきました……短めですがここまでにしておきます。

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