異伝 《格の違い》

腕力で押し負けたトロールはナイに対して怯えた表情を浮かべ、人間を相手に力で負ける事など初めての経験だった。高レベルの巨人族が相手であろうと腕力で押し負けた事など一度もなく、その巨人族よりも非力な人間に自分の力が通じなかった事にトロールは衝撃を受けた表情を浮かべる。



「ウガァアアアッ!!」

「ガアアアッ!!」



追い詰められたトロールは無我夢中に丸太を振り回すが、それを見たビャクが飛び込む。鋭い牙がトロールの首元を切り裂き、トロールは首から大量の血を放出しながら倒れ込む。



「ギャアアアアッ!?」

「フガァッ!?」

「ウガァアッ!!」

「こっちも忘れるな!!」



ビャクの攻撃で遂に仲間の1体が倒された事に他のトロールは怒り、彼に集中攻撃を喰らわせようとした。しかし、それよりも先にナイはトロールの群れに向かうと、最初に両足を負傷したトロールを狙う。


旋斧を手にしたナイは片目を負傷したトロールの死角に移動すると、勢いよく旋斧を振りかざして胴体を切り裂く。身体を一回転させて相手を切り裂く「円斧」でトロールの胴体を一刀両断した。



「だあああっ!!」

「ウギャアアアッ!?」

「ウガッ!?」

「フガァッ!?」



立て続けて仲間がやられた事に残りのトロールたちは動揺し、それでもすぐに行動に移る。普通のトロールならば逃げ出してもおかしくはないが、残されたトロールは一か所に集まって背中を合わせてナイ達に身構える。



(防御に集中している?やっぱり、普通のトロールじゃなさそうだ)



武装や丸太を武器として扱っている時点で野生のトロールではあり得ぬ行動であり、更にお互いを庇い合うように動くトロールの行動を見てナイは警戒心を高める。ビャクもナイの傍に移動して様子を伺い、お互いに睨み合う形となった。


ここまでの戦闘からトロールの群れは先日に街を襲撃したトロールの集団である事はほぼ確定しており、野生のトロールらしからぬ行動を取っている当たり魔物使いに鍛え上げられたトロールなのは間違いない。問題は魔物使いの姿が傍に見えない事だった。



(魔物使いはこの近くにいないのか?)



ナイはトロールの群れから視線を外して周囲の様子を伺うと、それを見たトロールの群れはナイが隙を見せたと判断して防御を解いて丸太を振りかざす。



「ウガァアアアッ!!」

「ウォンッ!!」

「おっと……」



ビャクが注意するように声をかけると、ナイはトロールが攻撃を仕掛けてきた事に気付いて横に跳ぶ。ナイが立っていた場所に投げ放たれた丸太が倒れ込み、まともに受けていたら大怪我を負っていた所だった。


丸太を手放したトロールは舌打ちするが、他のトロールも丸太を担いで攻撃の隙を伺う。しかし、ナイの方は投げ放たれた丸太に視線を向けてあることを思い出す。



(そういえば昔に丸太を武器にして戦った事もあったな……こっちの方が射程リーチが長そうだし、久しぶりに使ってみるかな)



あろうことかトロールが手放した丸太をナイは拾い上げると、軽々と持ち上げて先ほど丸太を投げ込んだトロールに向けて繰り出す。



「どりゃあああっ!!」

「ブフゥッ!?」

「ウォンッ!?」



丸太を奪われたトロールは腹部に強烈な衝撃が走り、ナイの攻撃によって腹部を貫かれる。通常種のトロールは全身が脂肪の鎧を纏っているので打撃には強いが、生憎と今回現れたトロールは全身が筋肉質のため、まともに衝撃を受けて膝を着く。


思いもよらぬ反撃で倒れたトロールを見て他の個体も戸惑うが、ナイは更に丸太を担いだ状態で膝を着いたトロールの頭を足場にして空中に跳躍する。そのまま全体重を乗せてナイは他の2体のトロールに目掛けて落下した。



「喰らえっ、丸太流星群!!」

「「ウギャアアアッ!?」」

「ウォンッ!?(なにその技!?)」



2体のトロールを巻き込んでナイは丸太ごと地上へ激突すると、トロールたちは地面に転がり込み、ナイだけは無事に着地する。この時にナイは丸太を手放すと、倒れたトロールの1体の足を掴み、渾身の力を発揮して持ち上げる。



「どりゃああああっ!!」

「アアアアアッ!?」

「ウギャアッ!?」

「フガァッ!?」



脅威的な腕力でナイはトロールを持ち上げると、他のトロールを巻き込んで吹き飛ばす。その結果、3体のトロールは派手に地面に倒れ込み、全身骨折でもしたのか動かなくなった。



「ナイさん!!助太刀し……えっ!?」

「ふうっ……久々に良い運動になったかな」

「ウォンッ(もう遅いよ)」



フィルが城壁の警備兵を連れて援軍に駆けつけた時には既にナイの周りにはトロールの群れが倒れており、それを見た彼と兵士達は愕然とした――






※丸太は最強の武器です。

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