異伝 《強くなった理由》

「完敗です……やはり貴方は強い、尊敬します」

「あ、えっと……ありがとう」



フィルの言葉にナイは驚いた表情を浮かべながらも握手すると、二人は笑みを浮かべた。これまでに色々とあったがお互いに全力で戦った事でわだかまりが消え、今では友情のような物さえ感じていた。


各々の武器を回収するとフィルは改めてナイに視線を向け、見た限りでは自分と年齢はそう変わらないただの少年にしか見えない。しかし、その実は黄金冒険者の比肩する程の、あるいはそれ以上の実力を持つ人物なのだから人は見かけによらない。



「……ナイさんはどうやってそこまでの強さを手に入れたんですか?」

「強い?僕が……?」

「え、ええっ……何かおかしなことを言いましたか?」



ナイは呆気に取られた表情を浮かべるが、そんな彼を見てフィルの方が驚いてしまう。ナイは腕を組み、自分が「強くなった」という感覚を抱いた事は有るが、それでも自分が「強者」であるという自覚はなかった。



「う〜ん……強い、強いか」

「あ、あの……何か変な事を聞きましたか?」

「いや……」



悩んだ末にナイは自分がではなく、を思い出す。彼の強さを求めたのは最初は自分のためではなく、養父のアルのためだと語る。



「僕が最初に強くなろうとしたのは爺ちゃんのためだったかな」

「爺ちゃん……ナイさんのお祖父さんの事ですか?」

「うん、正確に言えば本当のお祖父さんじゃなくて、赤ん坊の頃に拾ってくれたひとなんだけどね……」



ナイは自分の昔を語り、こうして自分の身の上話をするのは実は初めてかもしれなかった――






――子供の頃のナイは生まれ持った「貧弱」という技能のせいで日付が変更する度にレベルが「1」に強制的に戻され、そのせいで年齢を重ねても他の子と比べて身体が弱かった。


今のナイならば考えられないが、昔は転んだだけで骨が折れるかもしれない程に身体が弱く、普通の人間のように生活するのも難しい状態だった。それでも養父のアルはナイが普通の人間と同じように暮らせるため、彼の身体を無理しない程度に鍛えてくれた。


レベルが上がらなくとも身体を鍛えれば筋力は体力は身に付き、色々な知識も授けてくれた。そのお陰でナイはレベル1でありながらも少しずつ身体が強くなっていき、猟師のアルの仕事を手伝えるようになった。




ナイの強さの原点は自分のためではなく、自分を心配してくれるアルを安心させるために彼は強くなろうと考えた。そして偶然にもナイは「貧弱」の技能の利用法を見出し、彼は魔物を倒してレベルを上げ、その際に得られる「SP」を利用して様々な技能を身に付ける。


どれだけレベルをリセットされようと新しい技能を身に付け、それを利用して更に強くなって次の技能を覚える。この頃からナイはアルのためではなく、自分の力で強くなれる事に楽しさを覚えて自発的に魔物を倒す様になった。




しかし、彼の運命が多き変わったのはアルが山から下りてきた「赤毛熊」に殺された時からだった。アルの仇を討つためにナイは毎日のように身体を壊しかねない無茶な訓練を積み、狂ったように強さを追い求めた。その結果、ナイは驚異的な速度で強くなれたかもしれない。


結果的にはナイは赤毛熊を屠る事に成功し、更なる強さを得た。だが、そんな彼に待ち受けていた運命は悲惨で赤毛熊の討伐を行っている間に村を魔物に襲われ、彼は親しい友人も優しくしてくれた村人も全て失う。




一時期は自暴自棄になって陽光教会の元で世話になっていたナイだったが、再び彼が立ち上がったのは「ドルトン」のお陰だった。街に魔物が襲撃した時、ドルトンの身を案じたナイは教会を飛び出して再び戦いの道を選ぶ。


その後は無事にドルトンを救い出したナイは旅に出た後、王都へ辿り着いた彼は様々な人物と出会った。中には恐ろしい相手もたくさんいたが、それらを乗り越えてナイは今の強さを得られた。






「――僕が強くなれたとしたら、色々な人のお陰だと思う。爺ちゃんが鍛えてくれなかった強くなれなかったし、ドルトンさんが居なければ今頃も教会の世話になってたと思う。でも、やっぱり一番の理由は……」

「一番の理由は?」

「……成り行きじゃないかな」

「な、成り行き……!?」



ナイの返答にフィルは唖然とするが、当のナイ本人も他に理由を説明する事ができず、彼に申し訳ないと思いながらも素直に答えた。



「他に説明のしようがないから……でも、前にガオウさんが言ってたけど、強い人はたくさんの経験をしているんだって」

「あの男、ナイさんにまでそんな事を……」

「ガオウさんに聞いた事があるの?でも、僕は本当にその通りだと思うな」



ナイが強くなった理由は様々な出来事を「経験」したからであり、彼の強さの秘密は「経験力」としか言いようがない。しかし、それをよりにもよってフィルが一番嫌っているガオウの持論だと知ると、フィルは深々と溜息を吐き出す。

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