異伝 《フィルとガオウの因縁》
「……僕はあの男が嫌いです」
「うん、知ってる……けど、どうして嫌いなの?」
「それは……色々です」
フィルがガオウの事を嫌っているのはナイは知っているが、どうしてフィルがガオウの事を嫌っている理由は知らない事を思い出して尋ねる。しかし、フィルは答えたくはないのか顔を反らして何も話さない。
あくまでもナイが見た限りではフィルはガオウの事は嫌っているが、ガオウの方はフィルをぞんざいに扱いながらも何処となく彼の事を気にしている様子だった。人よりも観察力に優れているナイは二人の間に何かあったのではないかと思い、詳しく尋ねる事にした。
「どうしてフィルはガオウさんを嫌っているの?」
「……それは」
「教えてよ」
「うっ……」
他の者ならばともかく、尊敬しているナイの言葉にはフィルは断る事ができず、彼はまだ自分とガオウが獣人国で活動していた時の事を話す。
「僕とガオウは元々は獣人国の出身だという事は知ってますね?」
「うん、確か二人とも獣人国の冒険者として活動してたんだよね」
「はい。ガオウは僕よりも少しだけ早く冒険者になったんですが、獣人国にいる時も将来有望な冒険者として名前は知れ渡っていました」
ガオウは獣人国で冒険者だった時も有名だったらしく、フィルは一時期だけ彼に憧れを抱いていた事もあった。しかし、そんな彼が突然に獣人国を離れて王国へ向かったという話を聞いた。
「僕はガオウと同じ冒険者ギルドでしたが、突然にあいつが獣人国を離れると言い出したんです。あと少しで黄金級冒険者に認められる所であいつは獣人国を離れ、王国で黄金級冒険者になりました」
「え、そうだったんだ。でも、何で急に?」
「本人に問い質しても何も答えてくれませんでした。でも、あいつが獣人国を抜け出したせいで色々と大変な事になったんです。獣人国の黄金級冒険者は王国よりも少なく、黄金級に昇格するだけでも名誉なんです。それなのにあいつは黄金級の昇格間近で王国の冒険者になった……これは獣人国からすれば裏切りに等しい行為なんです」
「裏切りだなんて……」
「勿論、あいつにも事情があったのは分かってます。だけど、獣人国の冒険者からすればあいつのした事は許される事じゃないんです……僕もそう思っていました」
獣人国の冒険者達はガオウが王国の冒険者ギルドに移籍した事に憤慨し、その中にはフィルも混じっていた。よりにもよって憧れを抱いていた男の行動だけに彼は他の者よりも怒りは大きかった。
彼は種族は人間ではあるが、獣人国で生まれた身として自国に誇りを抱いていた。だからこそ獣人国の出身でありながら王国に行ったガオウを許せなかったという。
「あいつと再会した時、どうして獣人国を裏切ったのかを問い詰めました。そうしたらあの男は「裏切ったつもりはない、ただ俺のしたいようにしただけだ」と平然と答えたんです」
「ど、どういう意味?」
「聞いたところによるとガオウが王都のギルドに移籍した理由はどうやらゴウカという冒険者が関わっているようです」
「ゴウカさん?」
まさかここで現在は監獄に収監されているはずのゴウカの名前が出てくるとは思わず、ゴウカが話にどのように関わるのか気になった。
「どうやらあいつは獣人国に遠征していたゴウカと出会い、決闘を申し込んでコテンパンに敗れたそうです。だから再戦の機会を得るためにゴウカが獣人国を離れると自分も後を追いかける様に王国の冒険者ギルドに移籍したとか……」
「あ〜……なるほど、ガオウさんらしいね」
「あの男は国よりも自分の誇りのために冒険者ギルドを移籍したんです。その話を知った時は腸が煮えくり返りましたが……今は少しだけあいつの気持ちが分かります」
フィルはガオウが移籍した理由を知って最初は怒りを抱いたが、先日にナイに敗れた時に彼の気持ちが分かった。ナイに完膚なきまでに敗北したフィルは自分自身が恥ずかしく、大勢の人間に失態を見せてしまった事に恥を抱く。
だからこそ彼は飛行船がポイズンタートルに襲われた時、恥を塗りつぶす程の功績を上げようと必死になっていたが、結局はまた他の人間に迷惑を掛けてしまう結果となった。しかも自分を敗北させたナイが一番の被害を受けた事に彼は情けなく感じる。
「あいつの事を許したわけじゃありませんけど、それでも少しだけあいつの気持ちが分かったような気がします……」
「そっか……何時か仲直りできるといいね」
「……嫌ですよ、そんなの。あいつと仲直りなんてぞっとします」
ナイの言葉を聞いてフィルは苦笑いを浮かべ、今更二人とも昔のように仲良くなりたいとは望んでいない。それでもフィルはこれ以上にガオウを恨む事を止め、前に進む事を誓う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます