異伝 《旋斧の誕生までの歴史》

――遥か昔、王国の領地内に隕石が降ってきた。その隕石は人里から遠く離れた山に落ちると、隕石が落ちた場所に得体の知れぬ生物が誕生した。


その生物はゴーレム種と非常に似通った姿をしていたが、ゴーレム種の弱点である水が効かず、あらゆる魔法を吸収する能力を持ち合わせていた。そのゴーレムの存在を知った冒険者は討伐のために出向く。


しかし、100人近くの冒険者が隕石が落ちた場所に誕生したゴーレムに敗れ、最終的には複数人の魔術師が同時に魔法攻撃を行う。複数の属性の魔法を同時に受けたゴーレムは突如としてし、跡形もなく吹き飛んだ。


ゴーレムの討伐に成功すると、その残骸は回収されて様々な人物の元に渡った。そしてある時に伝説の鍛冶師と謳われる人物の元に渡り、彼はこの残骸を利用して特殊な魔剣を作り出す。


その鍛冶師はある武人の依頼を受けて「絶対に壊れない魔剣」の製作に取り掛かっており、彼は魔法を吸収して再生する機能を持つ魔剣を作り出した。その魔剣こそが後に「旋斧」と呼ばれる魔剣であり、それから旋斧は様々な人物の手に渡ってナイの元に辿り着く――






――ドワーフから話を聞き終えたナイは飛行船が迎えに来るまでの間、ずっと旋斧を眺め続けていた。まさか今になって旋斧の根源ルーツを知る事になるとは夢にも思わず、何だか不思議な気分だった。



「お前にも歴史があったんだな……」

「ウォンッ?」

「ぷるんっ?」

「いや、何でもないよ」



ナイの傍に控えていたビャクとプルリンは不思議そうな表情を浮かべるが、ナイとしては別に旋斧の正体を知った所で何も変わらなかった。この旋斧がアルの形見であり、そして自分の愛剣である事に変わりはなく、これまで通りに使い続けるつもりだった。


旋斧を背中に戻したナイは鍛冶師達から返して貰った金属の塊と黒水晶に視線を向け、これらは飛行船を運転して迎えに来るはずのハマーンに渡すつもりだった。結局のところはグツグ火山の鍛冶師達ではこの二つの素材の秘密を全て解き明かす事はできず、ここは王国一の鍛冶師に調べてもらうのが一番だという結論になった。



「さてと、久々に王都へ戻れるよ。ビャクもプルリンも色々と手伝ってくれてありがとう」

「ウォンッ♪」

「ぷるぷるっ♪」



ナイが2匹の頭を撫でるとどちらも嬉しそうに擦り寄り、王都に戻った二人にご馳走を用意しようかと考えた時、彼の前に思いもよらぬ人物が現れる。



「ナイさん」

「え、フィルさん?」

「フィルでいいですよ」

「ウォンッ?」



城壁の上で待機していたナイ達の元にフィルが訪れると、彼は緊張した様子でナイの前に立ち、意を決したように語り掛けた。



「飛行船が来る前にお願いがあるんですが――」






――数分後、ナイはフィルと向かい合って武器を構えていた。彼の頼みというのは飛行船が到着する前にもう一度だけ立ち合って欲しいという内容だった。以前にもナイはフィルと戦った事は有るが、あの時はナイの勝利で終わった。


しかし、今回はフィルも最初から真剣な顔を浮かべており、ナイに対して全力で挑む。彼は鎖の魔剣を振りかざし、様々な攻撃を繰り出す。



「はああっ!!」

「……ここだっ!!」



鎖を振り回しながら近付いてきたフィルに対してナイは旋斧と岩砕剣を構えると、フィルに目掛けて正面から突っ込む。ナイの行動を見たフィルは慌てて左右から鎖を放つが、その攻撃に対してナイは岩砕剣を地面に突き刺して自分は上空へ浮き上がる。



「とうっ!!」

「なっ!?」



岩砕剣を地面に突き刺した事でフィルの放った鎖は岩砕剣に絡みつき、その間にナイは地面に着地すると、フィルが岩砕剣から鎖を回収する前に彼の懐に飛び込む。



「やああっ!!」

「うっ!?」



ナイはフィルの首元に旋斧の刃を振り下ろすと、首に触れる寸前で刃を止めた。フィルは寸止めで攻撃を中断したナイに対して表情を引きつらせ、やがて観念したように武器を手放す。



「参り、ました……」

「……うん」



降参を宣言したフィルを見てナイは頷き、旋斧を背中に戻して岩砕剣の回収を行う。そんな彼の後ろ姿を見てフィルは自嘲し、改めて自分とナイの力の差を思い知らされた。


前回の敗北からフィルは自分なりに鍛え直し、ナイの戦い方を思い出して対抗策を練った。しかし、実際に戦ってみると数分も持たずに敗れた事に彼は悔しく思う。



(やはり前の時はこの人は全力じゃなかったのか……)



薄々と気付いていた事だが、フィルは自分とナイの実力差を思い知らされて項垂れる。そんな彼に気付いたナイは声を掛けようとしたが、すぐに思い留まる。どんな言葉を駆ければいいのかナイには分からなかったのだ。


しかし、完膚なきまでに敗北したせいか逆にフィルはすっきりとした表情を浮かべ、改めて彼は握手を求める。前回の時と違い、今回はフィルも納得のいく終わり方だった故にナイを恨む気もなければむしろ尊敬の念さえ抱く。

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