異伝 《ドワーフの交渉》

「坊主の話を聞く限りだと、その黒いゴーレムは魔力を奪う能力があるんだろう?なら、そいつが火口の魔石の魔力を奪ったんじゃないか?」

「でも、火口には数百の魔石があるんですよ?それを全部吸収するなんて……」

「単体とは限らないだろ。もしかしたら他にも同じ奴が居るんじゃないのか?」

「あ、なるほど……でも、火山を調べた時は1体しか見かけませんでしたけど」



火山から帰還する前にナイは念のために他にゴーレムが存在しないのか調べたが、村で発見したゴーレム以外の個体は確認できなかった。しかし、ガオウの言う通りにナイが発見したゴーレムの他に別個体が居る可能性は十分にある。


恐らくはナイが倒した「漆黒のゴーレム」は、火山が隕石に落下した際に誕生した新種のゴーレムの可能性が高い。魔法を吸収する能力を持ち合わせ、奪い取った魔力は身体に埋まった黒水晶に蓄積し、口から吐き出す。



「魔力を吸収……まるでナイさんの魔剣みたいですわね」

「えっ?」

「ナイさんの魔剣も魔法の力を吸収するのでしょう?そういえば今まで聞く機会はありませんでしたけど、ナイさんの旋斧はどのような素材で作られているのか気になりますわ」

「素材と言われても……詳しい話は聞いた事がないんです」



ナイはドリスの言葉に言われてみて確かに彼女の言う通りに旋斧の「魔力を喰らう能力」と、新種のゴーレムの「魔法攻撃を吸収する能力」は非常に似ている。


外部から受けた魔法攻撃を吸収できるという点は共通しており、ナイはゴーレムを倒した時に手に入れた「核」を思い出す。通常のゴーレムとは違い、新種のゴーレムの核は魔石の類ではなく、金属の塊に等しい。



「そういえばゴーレムを倒した時にこんな物を手に入れたんですけど……」

「何だそれ?石炭……いや、違うな」

「これは金属ですか?」

「鉄の塊に見えなくもないですが……」



回収したゴーレムの核をナイが見せると他の者たちは不思議そうに覗き込み、試しに触れてみるが特に何も反応しない。こちらの核はナイが強化術を発動させた状態で攻撃を仕掛けても傷一つ付かず、恐らくは魔法金属の類だと思われた。



「こんなの俺も見たことないな……爺さんなら何か分かるかもしれないな」

「爺さん?」

「ハマーン技師の事ですわね」

「確かにドワーフのハマーン殿なら何か分かるかも……ドワーフ?」



ガオウはハマーンに金属の塊を見せる様に提案するが、この時にフィルはある事を思い出し、他の者たちも顔を見合わせる――






――しばらく時間が経過すると、ナイ達の元にグツグ火山に暮らしていた鍛冶師達が訪れる。彼等は自分達が呼び出された理由が分からずに混乱するが、ナイが回収した金属の塊を見せると驚いた表情を浮かべた。



「こ、こいつは……!?」

「何だこれは……ただの鉄の塊じゃねえな」

「むむむっ……これを何処で手に入れた!?」

「いや、その……」



金属の塊を見せた途端に鍛冶師達は集まり、目を見開きながら覗き込む。ナイ達は鍛冶師の反応を見てやはりただの金属ではないのかと思い、手に入るまでの経緯を話す。



「その塊はナイさんがグツグ火山で遭遇したゴーレムを倒して手に入れた物です」

「ゴーレム!?こいつはゴーレムの核なのか!?」

「しかし、あの火山にはマグマゴーレムしかいないはずだぞ!?マグマゴーレムの核は火属性の魔石のはずだ!!」

「いったいどんな奴だった?」

「えっと……全身が黒くて、それと黒色の水晶のような物が身体中に埋まっていました」



鍛冶師達にナイは説明しながら核とは別に回収した「黒水晶」を取り出す。それを見た瞬間、鍛冶師達はナイから奪い取るように黒水晶を取り上げて虫眼鏡で覗き込む。



「な、なんじゃこれは!?魔石のように見えるが、ただの闇属性の魔石ではなさそうだぞ!!」

「こんな物、見た事がない!!」

「むむむっ……これは時間を掛けて調べる必要があるな。貰っておくぞ!!」

「おい、こら!!勝手に持って行こうとするんじゃねえっ!!そいつは坊主の倒したゴーレムから手に入れた戦利品だぞ!!」



勝手に核と黒水晶を持って出て行こうとしたドワーフ達にガオウが先回りして注意すると、彼等は不満そうな表情を浮かべる。しかし、鍛冶師の代表格の村長が前に出ると、彼はナイの装備を確認して腕を組む。



「ふむ……見た限り、随分と装備が汚れておるようだが手入れはちゃんとしておるのか?」

「え?あ、そういえば最近は急がしくて……」

「いかんぞ!!一流の戦士ならば常日頃から装備の手入れをせねばならん……という事で儂等がお主の装備を見直してやろうではないか。それでこの二つを調べる事を許してくれんか?」

「ええっ!?」



思いもよらぬ提案にナイは呆気に取られるが、ここに集まった鍛冶師達は元々はグツグ火山に暮らしていた優秀な鍛冶師揃いであり、彼等の手にかかればナイの装備の手入れは瞬く間に終わる。それどころか前よりも装備を強化してくれるという。


その後、色々と話し合った末にゴーレムから回収した核と黒水晶は、に鍛冶師達に預ける事にした。今の段階ではナイ達が所持していても正体を調べる事はできず、次に飛行船が訪れる時に返却する事を条件にナイ達はドワーフ達に核と黒水晶を貸す事にした――

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