異伝 《火口の異変》
――身体が回復するまで休んだ後、ナイはビャクとプルリンと共に火山の火口へ向かう。前回の時は火口に近付くと熱気が強まってかなり苦しい思いをしたのだが、火山の中腹部分に到達しても気温が特に上がった様子はなく、むしろ逆に温度が下がったかのように寒くなった。
「くしゅんっ!!ううっ……なんでこんなに寒いんだ?」
「ぷるぷるっ(毛布が欲しい)」
「ウォンッ!?(スライムの癖に寒がり!?)」
以前と比べて火山全体の気温が明らかに下がっており、本当に自分が火山にいるのかと疑問を抱く。この場所には数百のマグマゴーレムが生息しているはずなのだが、何故か村で遭遇した新種のゴーレム以外はゴーレムを見かけていない。
嫌な予感を抱きながらもナイ達は遂に火山の頂上部へと到着すると、そこでナイは異様な光景を確認した。前回の時に火口に到着した時はマグマで溢れていたにも関わらず、何故か現在のグツグ火山はまるで死火山のようにマグマが消え失せていた。
「ど、どうなってるんだ?」
「ウォンッ……」
「ぷるぷるっ……」
火口には大量のマグマゴーレムが生息していたはずだが、現在は火口の頂上部は隕石が落ちてきたクレーターが出来上がっているだけでマグマも湧きあがっていない。しかも異変はそれだけではなく、火口の岩壁には色を失った硝子の様な水晶が大量に埋め込まれていた。
「これは……魔石?」
ナイは岩壁から完全に魔力が失われた魔石の原石を発見し、引き抜こうとすると簡単に壊れてしまった。魔石は魔力を失うと強度が落ちて砕けやすくなり、原因は不明だが火口付近の火属性の魔石の原石が全て魔力を失っていた。
この場所で何が起きたのか見当はつかないが、鍛冶師達と兵士の話によると少し前に火山に隕石が落下し、その時に巨大な火柱が火山から上がったという話を聞く。それが原因かは不明だが、今のグツグ火山はマグマも火属性の魔石を生み出せる状態ではない。
(ここで何が起きたんだ……?)
消えてしまったマグマゴーレムの大群、そしてナイが先ほど倒した新種のゴーレム、色々と気になる点はあるが今の時点では何も分からない。ひとまずはナイはゴノに戻って報告を行う事にした――
――それから二日後、ナイはゴノの街へ帰還するとグツグ火山の異変を知らせた。話を聞いたドリス達はあまりの内容に動揺し、実際に火山に赴いたナイ自身もあまりの火山の変化に戸惑っていた。
「グツグ火山からマグマゴーレムが消えた?しかも見た事もないゴーレムが現れただと?」
「い、いったいどういう事ですか?数百のマグマゴーレムが何処に消えたのですか?」
「分かりません……けど、火山の周辺を調べた限りではマグマゴーレムが他の地域に逃げた形跡は見つかりませんでした」
「そうですわね、となると隕石が落ちた時にマグマゴーレムが全滅したと考えるべきでしょうか……」
ナイの話を聞いたドリスは火口付近に生息したマグマゴーレムの大群は、隕石の落下時に消滅し、火口で起きた火柱はマグマゴーレムが全滅した際に起きた現象ではないかと推測する。
火柱の正体は隕石の落下の衝撃でマグマゴーレムの大群が爆発し、その影響で火属性の魔力が暴発して天に打ち上がった。そう考えるとそれほど不自然はないが、問題なのは隕石が落ちた後に火山が活動を停止した事だった。
「その火柱の原因がマグマゴーレムのせいだとしても、どうしてグツグ火山は活動が停止したんだ?隕石が落ちたら火山は止まるもんなのか?」
「いえ、そんな話は聞いた事もありませんわね……ですけど、隕石が落下した際に火山が何らかの影響を受けた可能性は大いにありますわ」
「そうですね……」
「う〜ん……」
隕石が火山に落ちる事が前代未聞であり、少なくとも王国の歴史の中でそのような事態は起きた事は一度もない。だからこそドリスの仮説も否定する事はできないが、ナイが気になったのは火山の火口付近の魔石が色を失っていた事に違和感を抱く。
「マグマゴーレムが全滅して火山が活動を停止した理由が隕石だったとしても……どうして火口付近の魔石は魔力を失ってたんでしょう」
「ん?どういう意味だ?」
「だって、おかしくないですか?マグマゴーレムが消えたのは隕石が落下して跡形もなく吹き飛んだとしても、魔石の場合は魔力だけが失われた原石が残ってたんですよ?もしもマグマゴーレムが隕石の落下で爆発したとしても、魔石だけが無事に残っていてしかも魔力だけが抜けた状態で埋まっているなんてあり得ますか?」
「た、確かに……それはおかしいですよね?」
「言われてみれば……仮に火山の活動が停止したとしても、魔石から魔力が失われる原因の説明にはなっていませんわ」
ナイの指摘に他の者たちも同意し、仮に火山が活動を停止した事で火属性の魔石を作り出す機能が失われたとしても、元々残っていた火属性の魔石が魔力を失う理由はない。つまり火山付近の魔石が魔力を失った原因は別にあると考えるべきだろう。
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