異伝 《ゴーレムの核》
ナイの奇策によってゴーレムは自ら放出しようとした火属性の魔力が体内で暴走し、頭部が爆発して吹き飛ぶ。この時にナイの旋斧も弾かれてしまうが、奇跡的にナイは爆発に巻き込まれずに済んだ。
頭部を失ったゴーレムはそのまま動かなくなり、発熱していた肉体も元に戻っていく。赤く発光していた黒水晶も魔力が抜けたように元の色合いに戻り、立ち尽くしたまま動かなくなったゴーレムの胴体を見てナイは一安心する。
「か、勝った……」
「ウォンッ♪」
「ぷるぷるっ♪(←小躍りする)」
ナイが勝利を確信するとビャク達がすぐに駆け寄り、プルリンに至ってはお得意の「ぷるぷるだんす」を披露する。そんな二人を見てナイは笑みを浮かべるが、立ち上がろうとした瞬間にナイは異様な気配を感じた。
「ッ……!!」
「えっ……うわぁっ!?」
「ウォンッ!?」
「ぷるんっ!?」
立ち尽くしたゴーレムの胴体から離れようとした瞬間、唐突にナイは何者かに肩を掴まれ、そのまま持ち上げられる。いったい誰の仕業かとナイは焦ると、彼を掴んだのは頭部を完全に失ったはずのゴーレムだった。
(しまった!?こいつ、まだ動けるのか!!)
ゴーレム種は体内の核を破壊しない限り、例え頭部を失おうと死ぬ事はないのをナイは忘れていた。それが仇となってナイは身体を持ち上げられ、このままでは地面に叩き付けられる。
もしもゴーレムの怪力で叩き付けられたらナイも無事では済まず、この時に彼はゴーレムの腕を逆に掴んで「腕力」で抑え付けようと「強化術」を発動させた。
「いい加減に……しろぉっ!!」
「ッ……!?」
ナイは強化術を発動させると彼の肉体は聖属性の魔力で覆われ、全身の筋肉を限界以上に強化して驚異的な身体能力を一時的に得る。ゴーレムを上回る腕力でナイは腕を引き剥がすと、今度は逆にゴーレムの身体を掴んで持ち上げた。
「どりゃあああっ!!」
「ッ……!?」
「キャインッ!?」
「ぷるんっ!!(一本!!)」
頭部が存在しないゴーレムは悲鳴を上げる事もできぬまま、ナイの「一本背負い」によって地面に叩き付けられた。この時に破壊された頭部から亀裂が全体に広まり、それを確認したナイは倒すのならば今しかないと判断した。
「ビャク!!剣を!!」
「ウォンッ!!」
ナイが手を伸ばすとビャクは即座に落ちていた岩砕剣を口元に咥え、ナイの元にまで運び出す。ナイはビャクから岩砕剣を受け取ると、今度こそ復活しないように全力の一撃を繰り出す。
「でりゃああああっ!!」
「ッ――!?」
倒れたゴーレムの胴体に今日一番の衝撃が走り、岩砕剣の一撃によって遂にゴーレムの肉体は粉々に砕け散った。この時にゴーレムの胸元の部分に歪な形をした黒色の金属の塊のような物が露わになった。
ナイは金属の塊を拾い上げると、恐らくはこれがゴーレムの核だと思われるが、異様に硬くて強化術状態のナイでさえも破壊はできそうにない。しかし、核を取り出した事でゴーレムは完全に動かなくなり、それを確認したナイはため息を吐き出して座り込む。
「か、勝った……はあっ、きつい」
「ぷるぷるっ」
「あ、プルリン……荷物を持ってきてくれたの?ありがとう、助かったよ……」
「ウォンッ……」
強化術が切れた事で一気に疲労が襲い掛かってきたナイをビャクが支え、急いでプルリンがナイの鞄を頭に乗せて運んできてくれた。
ナイの「強化術」は一時的に超人的な身体能力を得る代わり、術が切れると反動で身動きもできなくなるほどの疲労と筋肉痛に襲われる。そのために強化術の発動直後は回復薬の類を使用しなければならず、こんな時のためにナイはイリアの作ってくれた「仙薬」を口にする。
(ふうっ……しばらくしたら動けそうだな)
どうにか仙薬を口にした事でナイの身体は徐々に回復し、数分もすれば元通りに動けるはずだった。身体を休めている間にナイはゴーレムの体内から出てきた金属の塊に視線を向け、今まで倒してきたゴーレムと比べて異様な形と色合いをした核に疑問を抱く。
(これは何だろう?魔石や魔水晶には見えないけど……)
ゴーレムの核は魔石と同じ効能を持つ鉱石のはずだが、何故かナイが倒した「漆黒のゴーレム」は黒色の金属の塊のような核だった。しかも並の硬さではなく、強化術を発動させたナイの岩砕剣の一撃を受けても傷一つ負っていない。
核を手にしながらナイはこれからどうするべきか考え、ひとまずは身体が回復した後は火山の火口へ向かう事にした。鍛冶師達が見たという火口の「火柱」の事が気にかかり、念のために火口の様子を調べる必要があると判断したナイは身体が回復するまで一休みする事にした――
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