異伝 《ナイVS新種ゴーレム》

「アガァアアアッ!!」

「うわぁっ!?」

「ウォンッ!!」



ゴーレムは冷気を吐き終えると、改めてナイとビャクに目掛けて拳を放つ。咄嗟にビャクはナイの身体を引っ張り上げて回避すると、ゴーレムと距離を開く。


冷気を吐き終えた瞬間、ゴーレムの身体のあちこちに埋め込まれている水晶が元の色に戻った事にナイは気付き、あの水晶が魔法の力を吸収して蓄積しているのかと考える。実際にナイの水属性の魔法攻撃を吸収した際、ゴーレムに埋め込まれた水晶の色が「青色」に変化した。



(あの水晶、闇属性の魔石かと思ったけど……もう一度試してみるか?)



ナイは旋斧に視線を向け、今度は別属性の魔法攻撃を試す事にした。色々と考えた結果、魔法の属性の中で最も攻撃能力が低い「聖属性」の魔法剣を試す。



(もしも聖属性の魔力まで奪われたらこいつには魔法剣は通じない。けど、試すしかない!!)



聖属性の魔力を宿した事で旋斧は光り輝くと、それを見たゴーレムはナイに目掛けて両腕を伸ばす。その動作を見てゴーレムが再び旋斧から魔力を吸収するつもりだと悟ったナイは、ビャクを下がらせて攻撃を仕掛ける。



「はあああっ!!」

「ウオオオッ!!」



旋斧を正面から振り下ろしてきたナイに対してゴーレムは両腕で受け止めると、金属音が鳴り響く。やはり「剛力」の技能や「剛剣」などの技術を利用して攻撃しなければゴーレムには通じず、それでもナイは力を緩めずに旋斧を押し込む。


ゴーレムは掌越しにナイの旋斧の刃に触れると、手元に埋め込まれた黒水晶が反応して徐々に色が「黒」から「白」に変色する。その途端に旋斧が纏っていた聖属性の魔力が薄れていき、魔力が吸収される光景をナイは間近で確認した。



「やっぱりこいつ……!?」

「オアアアアッ!!」



聖属性の魔力を掌に埋め込まれた黒水晶越しに吸収したゴーレムはナイに顔を向け、再び口元を開いた。それを見たナイはまたもや口から聖属性の魔力を吐き出すつもりなのかと驚き、咄嗟に足元に力を込めて旋斧をゴーレムから引き剥がす。



「離れろっ!!」

「オアッ!?」



ゴーレムを蹴飛ばしてナイは無理やりに旋斧を引き剥がすと、即座に後方へ跳躍して距離を置く。ゴーレムは予想外のナイの行動に驚くが、即座に口元から霧状と化した聖属性の魔力を放出した。



「アガァアアアッ!!」

「くっ!!」

「ウォンッ!?」



聖属性の魔力は吐き出されると「白霧」のように周囲に広がり、ゴーレムの姿を包み隠す。普通ならば霧で姿を消したゴーレムを捕らえる事はできないが、ナイは冷静に意識を集中させる。



(視覚に頼るな……心の目で捕らえるんだ)



ナイは全神経を集中させ、霧の中で彼は旋斧を横向きに構える。この時にナイは「心眼」を発動させ、霧に乗じてゆっくりと近づくゴーレムの存在を感じ取った。


ゴーレムがナイの旋斧の射程圏内に入った途端、ナイは目を見開いて剛力の技能を発動させる。そして全力で旋斧を振り払い、自分が唯一生み出した剣技を放つ。



「円斧!!」

「アガァッ――!?」



身体を一回転させて加速したナイはゴーレムの胴体に旋斧を叩き込み、強烈な衝撃を受けたゴーレムは体勢を崩す。霧の中に身を隠していようと「心眼」の前では無意味であり、体勢を崩したゴーレムに対してナイは背中の岩砕剣を掴む。



「だぁあああああっ!!」

「ウガァッ!?」



岩砕剣を抜いたナイは地属性の魔力を送り込み、岩砕剣の重量を増加させた状態でゴーレムの頭部に叩き込む。頑丈さと硬度は旋斧を上回る岩砕剣の一撃を受けたゴーレムは頭部に亀裂が走り、衝撃に耐え切れずに膝を着いた。


二度もナイの渾身の一撃を受けたにも関わらずにゴーレムは砕ける事はなく、単純な肉体の強度はロックゴーレムを遥かに上回る。下手をしたら土鯨並の防御力を誇るかもしれず、それでも身体の表面に僅かながらに亀裂が入った。



(どんなに硬い物でも……罅が入れば必ず砕ける!!)



硬い物質ほど砕けやすく、僅かでも罅が入ればそこから衝撃を与えれば砕けると考えたナイは岩砕剣を振りかざす。しかし、ナイが三度目の攻撃を食らわせる前にゴーレムは思いもよらぬ行動を取る。



「オアアアッ!!」

「なっ!?」



ゴーレムは身体を「球体」のように丸めると、そのまま後ろに転がって逃げていく。それを見たナイは呆気に取られたが、慌ててゴーレムの後を追いかけようとした。



「待てっ!!逃がすか!!」



球体と化したゴーレムはアルマジロのように転がりながら移動すると、村長の屋敷に目掛けて突っ込む。ゴーレムは壁を崩壊させて中に入り込むと、建物が崩れてしまう。それを見たナイは建物の中に逃げ込んだプルリンの事を思い出し、慌てて駆け寄る。



「まずいっ!!プルリン!?」

「ぷるんっ?」

「ウォンッ!!」



慌ててナイは崩壊した建物に駆けつけようとしたが、何処からかプルリンとビャクの鳴き声が響く。驚いた彼は振り返ると、そこにはプルリンを頭に乗せたビャクが座り込んでおり、どうやらナイがゴーレムと戦っている間にビャクがプルリンを保護していたらしい。

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