異伝 《ビャクの警戒》
――火山に向けてナイ達が出発してから二日目、遂に目的地であるグツグ火山の麓までナイ達は辿り着いた。この時にナイは火山に到着した途端、異様な寒気を覚えた。
「くしゅんっ、なんでこんなに寒いんだろう。前に来た時は暑かったのに……」
「クゥ〜ンッ……」
「ぷるぷるっ?」
以前に飛行船で訪れた時はグツグ火山は真夏のような気温だったが、何故か今は冬の様に山全体の気温が下がっていた。ナイはマントで身を包みながら村がある方向へ向かう。
「うわ、酷いなこれ……ゴーレムの仕業かな?」
「ウォンッ……」
「ぷるるっ……」
村に辿り着くと殆どの建物が崩壊しており、その大半が焼け崩れていた。恐らくはマグマゴーレムの仕業だと思われ、村人がいなくなった後にマグマゴーレムが押し寄せて村を焼き尽くしたとしか考えられない。
話を伺った限りでは村人は全員が避難済みらしいが、崩壊した村を見る限りは村人が戻っても元通りの生活を送るのは難しい状態だった。ナイは念のために村中を歩き回り、比較的に無事な建物を探す。
「この建物は……他と比べて壊れてはいないな。二人とも、ここで待っててね」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ(早く戻ってきてね)」
ナイは損壊を免れた建物を発見すると、外にビャクとプルリンを待たせて中の様子を伺う。建物の中から人の気配は感じられず、中の様子を調べると余程慌てて出て行ったのか随分と荒らされていた。
(そういえばここは村長の屋敷だったな)
飛行船で訪れた時にバッシュが村長と会合した家である事を思い出し、どうやら彼の家だけは比較的に無事だったらしい。ナイは村長の家の様子を確認してから出て行こうとした時、外からビャクの鳴き声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「ビャク!?」
ナイに異変を知らせるかのようにビャクは大声で鳴き声を上げると、すぐにナイは外へ飛び出す。この時にビャクは既に戦闘態勢に入っており、プルリンは彼の足元に隠れていた。
「ぷるぷるっ……」
「グルルルッ……!!」
「二人ともどうしたの!?」
背中に抱えている旋斧に手を伸ばしながらナイはビャクとプルリンの元へ近づくと、彼等が正面を睨みつけている事を知って視線を向けた。しかし、予想に反して視線の先には何も存在せず、敵らしき姿は見当たらない。
ビャクとプルリンが何に気付いたのかを探るためにナイは「気配感知」の技能を発動させると、地中の方から異様な気配を感知する。即座にナイは旋斧を抜いて構えると、地面が盛り上がって内部から全体が漆黒に染まったゴーレムが出現する。
「ウオオオオッ!!」
「うわっ!?」
「ガアアッ!!」
「ぷるぷるっ……!!」
漆黒のゴーレムが地面から出現すると、ナイは驚いた声を上げてビャクは威嚇を行い、プルリンは怯える様にナイの足元に避難する。姿を現した漆黒のゴーレムはナイ達に視線を向けると、警戒するように態勢を低くして身構えた。
「オアアッ……!?」
「ゴーレム……なのか!?」
「グルルルッ……!!」
今までに見た事がないゴーレムを目にしたナイは戸惑いながらも旋斧を構えると、ビャクは全身の毛皮を逆立てながら警戒態勢に入る。プルリンはナイの足元で身体を震わせ、漆黒のゴーレムに怯え切っていた。
得体の知れぬゴーレムの出現にナイは戸惑うが、ビャクの反応とプルリンの怯え具合を見て只者ではないと判断する。その一方でゴーレムの方もナイ達を見て警戒態勢を取り、迂闊に近づく様子はない。
(何なんだこいつ……ゴーレムの亜種?だけどこんな奴、見た事も聞いた事もない)
魔物に関する知識はナイもそれなりに勉強してきたが、全体が漆黒で染まったゴーレムなど聞いた事も見た事もない。それに身体の至る所に「黒水晶」のような物が埋め込まれており、直感でナイは黒水晶の正体が魔石の類だと見抜く。
(あの黒い水晶みたいのは魔石か?けど、闇属性の魔石みたいに禍々しい魔力は感じない……だけど、嫌な予感がする)
長年の魔物との対戦経験でナイは初めて遭遇する魔物でも、優れた直感で危険性を感じ取り、どのように戦うべきかを考えた。その一方でビャクの方も野生本能で目の前のゴーレムの危険性を見抜き、主人であるナイに注意するように促す。
「ウォンッ!!」
「分かっている……こいつは危険だ。プルリンは下がってろ」
「ぷるぷるっ……」
ナイの言う通りにプルリンは先ほどナイが入っていた建物の中に避難すると、改めてナイは旋斧を構えて漆黒のゴーレムと向き合う。漆黒のゴーレムは初めて見る人間に警戒していたが、睨み合い続ける事に焦れたのか先に攻撃を仕掛けてきた。
「ウオオオッ!!」
「避けろっ!!」
「ウォンッ!?」
拳を振りかざして接近してきたゴーレムに対してナイはビャクに声をかけると、二人は左右に跳んでゴーレムが振り下ろした拳を交わす。ゴーレムの拳が地面に叩き付けられ、軽い振動が大地に広がる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます