異伝 《新種ゴーレム》
(……人がいないのは好都合だけど、食料も何も残っていないのは困ったわね)
井戸の水で喉は潤す事はできたが、食料は残っていなかった。手持ちの食料は尽きたのでアンは困った表情を浮かべ、仕方なく僕を呼び出して食料になりそうな生き物を捕まえさせようかと考えた。
だが、彼女が僕を読み出す前に村の中に轟音が鳴り響く。何事かとアンは視線を向けると、村の中に残っていた建物の一つが崩壊して崩れ去る光景を彼女は確認する。
(今のは……!?)
自然に建物が崩れたとは思えず、アンは建物が壊れた理由を確認するために現場へ向かう。そして彼女が見たのは崩壊した建物の中から瓦礫を押し退け、ゆっくりと立ち上がる漆黒の物体だった。
――ウオオオオオッ!!
瓦礫を振り払いながら立ち上がったのは全身が漆黒に染まったゴーレムである事が判明し、今までに見た事もない色合いのゴーレムを見てアンは驚く。ロックゴーレムやマグマゴーレムなどはアンも見た事は有るが、今回のゴーレムはどちらとも違う色合いをしていた。
(あれはゴーレム?しかもあの色合いから亜種……?)
全体が漆黒に染まったゴーレムを確認するとアンは身を隠し、遠目から様子を伺う。ゴーレムは破壊した建物の瓦礫を拾い上げ、口元に運び込む。
「アガァッ……」
「っ……!?」
破壊した建物の瓦礫を口に運んだゴーレムにアンは驚き、基本的にゴーレム種は鉱石を好んで食べるが、漆黒のゴーレムが口にしたのは建物を建設する際に利用される石材である。
石材を口にした漆黒のゴーレムはしばらくの間は咀嚼していたが、やがて味が気に入らなかったのか吐き出してしまう。それを見たアンはゴーレムの行動に戸惑い、それでも気づかれない様にゆっくりと近づく。
(外見はロックゴーレムと似ているけど、形が微妙に違う……)
漆黒のゴーレムの外見はロックゴーレムと似てはいるが、ところどころが出っ張っており、肩や肘や背中に黒色の水晶の様な物が埋め込まれていた。それが気になったアンは近づいて様子を観察しようとすると、この時に村に別の鳴き声が響く。
「ゴォオオオオッ!!」
「ウオオッ……!?」
「なっ……!?」
村の出入口に現れたのはマグマゴーレムであり、それに気づいた漆黒のゴーレムは振り返る。アンは目当てのマグマゴーレムが現れた事に反応するが、すぐに身を隠して2体のゴーレムの様子を伺う。
マグマゴーレムは漆黒のゴーレムに近付くと、同族であるにも関わらずに攻撃を仕掛ける。拳を握りしめ、全身を発熱させながら漆黒のゴーレムに叩き込む。
「ゴオオッ!!」
「オオッ……!?」
殴りつけられた漆黒のゴーレムは溶岩の拳を受けて怯み、数歩ほど後退る。その光景を見てアンは落胆した。外見が漆黒に染まっている事からゴーレムの亜種だと思われたが、マグマゴーレムの攻撃で怯んでいるようでは大した能力は持ち合わせていないのかと思った。
(ただの色違いのゴーレムなら配下にする必要はないわね。なら、やっぱりマグマゴーレムの方を……!?)
当初の予定通りにアンはマグマゴーレムを従えさせようと考えた時、彼女はマグマゴーレムの肉体の異変に気付く。先ほど攻撃を仕掛けたマグマゴーレムの拳から先が消えてなくなっており、何が起きたのかとマグマゴーレムは混乱する。
「ゴアッ!?」
「……ウオオオッ!!」
拳がなくなったマグマゴーレムに対して漆黒のゴーレムは近づき、両腕で拘束してきた。マグマゴーレムは必死に逃げ出いそうとするが、この時に漆黒のゴーレムは口元をマグマゴーレムの胸元に押し付け、勢いよく吸い込む。
「ウゴォオオオッ!!」
「ゴオオッ……!?」
「なっ!?」
マグマゴーレムは漆黒のゴーレムに飲み込まれ、溶岩で構成された肉体は瞬く間に吸収されてしまう。それを確認したアンは動揺し、何が起きているのか理解するのに時間が掛かった。
やがてマグマゴーレムの溶岩を全て吸いつくした漆黒のゴーレムは全身を発熱させ、この時に身体に埋め込まれていた「黒水晶」が赤く光り輝く。その輝きを見たアンは水晶の正体が「魔石」や「魔水晶」の類であると見抜き、漆黒のゴーレムは水晶を赤く光り輝かせると口元から火炎放射を放つ。
「アガァアアアアッ!!」
「っ……!?」
火炎放射というよりは最早「光線」に近い威力の放射を行い、射線上に存在した村の建物を吹き飛ばす。その威力は火竜の火炎の吐息にも匹敵し、やがて炎が収まると漆黒のゴーレムはその場を立ち去る。
「ウオオオッ……!!」
「…………」
立ち去っていく漆黒のゴーレムの姿を見てアンは冷や汗が止まらず、同時に彼女は笑みを浮かべる。グツグ火山に赴いた理由はマグマゴーレムを捕獲するためだったが、彼女はマグマゴーレムを凌駕する新種のゴーレムを最初に発見した人物となった――
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