異伝 《火柱》
「この街から見える程の巨大な火柱が上がったのに……噴火ではないというんですの?」
「ああ、俺達は逃げるのに必死で火山で何が起きたのかは分からないが……」
「これは……早急に調べる必要がありますわね」
話を聞き終えたドリスはナイに顔を向けると、彼も頷いて火山を調べる事に賛同する。しかし、飛行船がない今では火山まで自力で向かわなければならない。
ナイは犬笛を取り出すと、それを口元に運んで吹く。すると街の方から狼の鳴き声が響き渡り、城壁の上からビャクが飛び降りてナイの元に駆けつけてきた。
「ウォンッ!!」
「うわぁっ!?ば、化物!!」
「は、白狼種!?」
「あ、すいません……この子はうちの家族です」
ビャクが駆け寄ると鍛冶師達は驚愕するが、ナイの元に辿り着いたビャクは身体を伏せてナイを背中に乗せる。ちなみにナイが所有する犬笛はシノビ兄妹が作り出した笛であり、これを使えば笛の音が響く範囲ならばビャクはすぐに聞きつけて駆けつけてくれる。
「それじゃあ、先にグツグ火山に向かいます」
「大丈夫ですの?旅支度はした方が……」
「平気です、万が一の場合に備えてビャクに荷物を預けてました」
「ウォンッ!!」
ビャクの背中には既に旅に必要な荷物を掲げており、何時でも出発できる準備は整えていた。実は街中だとビャクを恐れる人間が多いため、夜の間はビャクは街の外で過ごさせている。
ナイとしては家族のビャクを一人寂しく危険な街の外に放置するのは心配なため、夜中に宿を抜け出してビャクと共に外で野営を行う事があった。そのために彼には常日頃に旅支度をさせており、今は都合が良かった。
「それじゃあ、ビャクと一緒に火山へ向かいます」
「任せましたわ。私も一緒にいければいいんですけど、この街の守護のために離れるわけにもいきませんし……」
「大丈夫です。じゃあ、行こうかビャク」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ……」
「うわっ!?プルリンも居たのか……」
ビャクの腰に固定していた大きな鞄からプルリンが姿を現し、どうやらずっと鞄の中に隠れていたらしく、彼はナイの頭の上に移動する。最近の彼の定位置はナイの頭の上であり、どうやら彼の頭の上が気に入ったらしい。
地図を取り出したナイは火山の位置と方向を確認し、白狼種であるビャクの脚力ならば2日も掛からずに目的地に辿り着けると判断する。飛行船が迎えに来るまで十分な猶予はあり、街の事はドリス達に任せてグツグ火山へ向かう。
「それじゃあ、行ってきます!!」
「お気をつけて下さいましっ!!」
「ウォオオンッ!!」
「ぷるっくりんっ!!」
ドリス達に見送られながらナイはビャクの背中に掴まり、久々に全力で走れる事にビャクは歓喜の咆哮を放つ。街に居る間はビャクは思う存分に走る事ができず、久しぶりに平地を駆け抜ける事に嬉しそうだった――
――同時刻、グツグ火山では大きな異変が訪れていた。隕石が落ちる前は火山のあちこちに大量増殖したマグマゴーレムの姿が見かけられたが、現在はマグマゴーレムの姿が全く見当たらない状態だった。
鍛冶師の村の方はマグマゴーレムの襲撃を受けた際に建物はほぼ燃え尽きてしまい、今現在は誰も住んでいない。しかし、そんな村に訪れる人間が存在した。
「おかしいわね……ここにはドワーフが住んでいると聞いていたのに」
村に訪れた人物の正体は先日にトロールとロックゴーレムを利用してゴノの街を襲撃した「アン」だった。彼女は新しい魔物を従えさせるべく、火山に立ち寄ったのだが途中でドワーフが暮らすはずの村を発見して誰もいない事に疑問を抱く。
彼女は村に立ち寄ったのは食料か水を探すためであり、井戸を発見した彼女は水を汲んで喉を潤す。そして改めて村の中を散策するが、村人が残っていない事に彼女は不思議に思う。
(人がいないのは都合がいいけど、ここで何があったのかしら……)
グツグ火山にはドワーフの里が存在するという噂は聞いていたが、実際に訪れた村には誰もおらず、それどころか村は半壊状態だった。恐らくは魔物に襲われて村人は逃げたと思われるが、建物の様子を確認する限りは最近まで人が暮らしていた形跡は残っている。
(少し前に村人は逃げ出したようね。そういえば火山の方で火柱が上がったように見えたけど……噴火じゃなかった?)
グツグ火山に向かう途中、アンも火山の火口に隕石が落ちた際、途轍もない規模の火柱が上がった光景を目撃している。しかし、実際に訪れたグツグ火山は最近噴火した様子はみられず、それどころか目当てにしていた「マグマゴーレム」も見当たらない。
先日にゴノを襲撃した際にアンは服従させていたロックゴーレムの内、3分の1近くも失ってしまった。そのために彼女は新しいゴーレムの補充を兼ねてグツグ火山に訪れたのだが、肝心のマグマゴーレムの姿が見えない事に疑問を抱く。
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