異伝 《鍛冶師の避難》

――城門の前には大勢のドワーフの鍛冶師が押し寄せ、彼等は兵士が用意した水をがぶ飲みしていた。ここまで移動するのに相当な苦労をしたらしく、彼等は疲れ切った表情を浮かべていた。


ドワーフは人間と違って馬の類を扱うのを不得手としており、そもそも火山で暮らしていた彼等は移動用の乗り物を飼育していなかった。彼等がどうやって生計を立てていたのかと言うと、彼等に仕事を頼みに来る客や鉱石目当ての商人から生活必需品を受け取っていた。


だが、魔物のせいで火山に暮らす事ができなくなった彼等は徒歩で街まで歩き、こんな事ならば前回に飛行船が訪れた時に乗せて貰えばと後悔する者も多かった。しかし、時間は掛かったがどうにか彼等はゴノの街へ辿り着き、兵士達に保護してもらう。



「ぷはぁっ!!死ぬかと思ったぜ……」

「ふうっ、まさか水がこんなに美味く感じるとは……」

「酒は駄目だな、余計に喉も乾くし身体がふらついてまともに歩けねえ。俺は酒断ちするぞ」

「どうせ三日坊主だろうに……」

「何だと!?喧嘩売ってんのか!?」

「止めんか馬鹿者どもが!!命拾いしたばかりで争うな!!」



鍛冶師達は兵士に渡された水を飲んで一息つくが、そんな彼等の元に黒馬に跨った黒狼騎士団が迫る。ドリス達は街を通り過ぎず、城壁の外側を回って鍛冶師達の元へ赴くと、彼等はドリス達に気付いて前に火山に訪れた者達だと気付く。



「お、お前等はあの時の!?」

「どうどうっ……お久しぶり、というほどでもありませんわね」

「あ、ああ……あの時は世話になったな」

「馬鹿、口を慎め!!この人達は王様の家来だぞ!!」



ドリスが馬から降りると鍛冶師達は罰が悪そうな表情を浮かべ、彼等は前回に顔を合わせた時は王子であるバッシュが相手でも堂々としていた。しかし、今は前の時のような強気な態度は取れず、鍛冶師の代表格が前に出て頭を下げる。



「前の時は仲間が世話になった……あの時、お主等の忠告を聞き入れて素直に飛行船に乗せて貰えば良かったと後悔しております」

「その様子を見る限り、やはり村にマグマゴーレムが押し寄せてきたのですね?」

「その通りでございます……幸い、怪我人は出ましたが殺された者はおりません。しかし、村は壊滅してもう儂等には住む場所はありません」



鍛冶師達の話によると飛行船が発ってから、それほど日にちも経過しない内に村が襲われ、彼等は村を放棄せざるを得なかった。幸いにも襲われた時に雨が降ったお陰でマグマゴーレムは村から退散し、その間に村人達は荷物を纏めて逃げ出した。


しかし、火山を抜け出した後も彼等は色々と苦労したらしく、街に辿り着くまで幾度も野生の魔物に襲われた。それでもどうにか彼等はゴノへ辿り着き、今後はゴノで暮らす事を認めてもらう。



「あの時に貴方達の言う事を聞いておれば儂等も怪我をせずに済んだというのに……」

「過ぎた事を考えても仕方ありませんわ。それよりも聞きたいことがあるのですけど、火山に隕石が落ちたという話は本当ですの?」

「あ、ああ!!俺達は見たんだ!!急に空から隕石が降ってきて、火山の火口に落ちる光景を!!」



鍛冶師達がグツグ火山を脱出した後、彼等はグツグ火山の火口に向けて隕石が落ちてきた光景を確認した。隕石が火口に落ちた瞬間、信じられない大きさの火柱が上がった事を伝える。



「あの時は儂等はもう駄目かと思ったな……隕石が落ちた瞬間、天を貫く勢いで火柱が上がったんだ。あんな光景、一生忘れられないな」

「火柱?それは噴火したという事ですの?」

「いや、それが……おかしな事に噴火とはまた違ったんだ。噴火したら火山の火口から溶岩が溢れるだろう?それなのに火柱が消えた後は特に何も起きなかったんだ。火口から溶岩が流れてくる事もなかったし、そのお陰で俺達は命拾いしたんだが……」

「噴火じゃない?」



火口から信じられない大きさの火柱が上がったにも関わらず、火口から溶岩流が溢れる事もなく、何事もなかったかのように元に戻った。しかもグツグ火山から火柱が上がった光景を見ているのは鍛冶師達だけではなく、ゴノの城壁を守護する兵士達も確認している事が発覚した。



「その話は事実だと思います。我々も火山がある方向で火柱のような物を確認しております」

「えっ!?ここからグツグ火山までかなりの距離があるんじゃ……」

「はい……ですが、確かに見えた気がしたんです。私以外に仲間に聞けば証言してくれるはずです」



鍛冶師達に水を運んだ兵士によれば、グツグ火山から火柱が上がった光景は遠く離れたゴノの街からでも確認できた。しかも一人や二人ではなく、城壁を守護していた兵士達が見かけたという。

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