異伝 《旋斧VS真紅》
「だあああっ!!」
「なっ!?」
ナイは迎撃の技能を発動させた瞬間、身体が勝手に反応して地面に突き刺さった旋斧を引き抜くと、ドリスの繰り出した真紅に目掛けて振り下ろす。
真紅に旋斧の刃が触れた瞬間に刃先から爆炎が生じたが、その爆炎を旋斧が吸い上げる。旋斧の外部から魔力を取り込む能力を利用して真紅から放たれる火属性の魔力を吸い上げ、彼女の攻撃を受け止める。
「そんなっ!?」
「まだまだっ!!」
旋斧で真紅の攻撃を防いだナイは今度は反対の腕で岩砕剣を掴み、そのまま引き抜くのではなく、力ずくで刃を地面に押し込む。すると地面に亀裂が生じてドリスの足場が崩れてしまう。
「うきゃっ!?」
「でりゃあっ!!」
足元の地面が崩れた事でドリスは変わった悲鳴を上げて尻餅をついてしまい、その隙にナイは真紅を弾き飛ばして彼女の首筋に旋斧の刃を構える。ドリスは唖然とした表情でナイを見上げ、一方でナイの方は額に汗を流しながらもドリスに語り掛けた。
「勝負有り、ですよね」
「……え、ええ、流石にこの状態ではどうしようもありませんわね」
「そ、そんな……」
「ドリス副団長が負けた!?」
「信じられない……」
二人の周囲で見学していた騎士達は信じられない表情を浮かべ、彼等はあの状況でナイがドリスに逆転するなど思いもしなかった。実際の所、ナイも一瞬だけ敗北を覚悟したが、上手く「迎撃」の技能が発動してくれて命拾いした。
迎撃の技能はナイが反撃の意思がある時にだけ発動し、頭で考えて動くのではなく、身体の方が相手の攻撃に反応して動く。最近はナイを追い詰める相手もいなくなったので迎撃を発動する機会もなかったが、今回ばかりはナイも技能に救われた。
(危なかった……もう少しで大やけどを負う所だった)
旋斧の性質を利用して真紅の放つ爆炎を吸収していなければ今頃はナイは火達磨と化しており、その場合は為す術もなく敗北していた。正に紙一重の勝利だと言えるが、ドリスの方は残念そうな表情を浮かべる。
「ふうっ、この方法ならナイさんの意表を突けると思ったのに……」
「いや、本当に死ぬかと思いました」
「ご謙遜を……掠り傷一つも負っていないのにそう言われても悔しいだけですわ」
ドリスの言う通りにナイの肉体は彼女の攻撃を一度も受けておらず、特に損傷は負っていない。改めてドリスはナイがもう自分の手には届かぬ相手だと判断し、悔しく思いながらも素直に敗北を認めた。
「今回は私の完敗ですわ。でも、次は勝って見せますわ」
「ど、どうも……」
「さあ、訓練はここまでにしましょう。ほら、立ち上がりなさい!!」
二人は握手を行うとドリスは身体を伏せている騎士達に声をかけ、彼等は慌てて立ち上がると整列する。今日の訓練はこれで終わりであり、全員が街へ戻ろうとした時に城門の方から馬に乗った兵士が駆けつけてきた。
「お、王国騎士様!!大変です!!」
「貴方は……確か、この街の警備隊長の?」
馬に乗って駆けつけてきたのはこの街を守護する警備隊長である事が発覚し、慌てた様子で駆けてきた彼を見てナイ達は不思議に思う。
警備隊長はドリスの前に到着すると馬を降りて跪き、余程急いでいたのか随分と息を荒げていた。何事か起きたのかとドリスが尋ねる前に彼は報告を行った。
「グ、グツグ火山に暮らす鍛冶師達が街に押し寄せています!!」
「グツグ火山?」
「鍛冶師って……まさか、あの時の?」
警備隊長の報告を受けてナイとドリスは驚いた表情を浮かべ、少し前に二人ともグツグ火山の鍛冶師達と顔を合わせている。飛行船の燃料を確保するためにグツグ火山の麓に存在する鍛冶師の村に飛行船が下りた際、村に暮らす全員がドワーフの鍛冶師だった事を思い出す。
「グツグ火山の鍛冶師達がどうしてこの街に?」
「そ、それが……彼等の話によるとグツグ火山に生息するマグマゴーレムが村まで押し寄せて避難してきたようです」
「やっぱり……あの時の王子の忠告を聞き入れていれば良かったのに」
飛行船が飛び立つ前、ナイ達はグツグ火山の異変に気付いて村に暮らすドワーフ達に一刻も早く避難するように促した。王子は飛行船で村人達を近くの街まで避難させる事も伝えたが、村人達はその提案を聞き入れずに村に残る。
彼等は村を離れるとグツグ火山の資源を独り占めする事ができないという理由で残ったのだが、結局は飛行船が離れた後に村まで魔物が襲い掛かり、地力で街まで避難する事になったらしい。そして彼等が避難先に選んだのがゴノの街らしく、今はナイ達が存在する場所とは反対側の城門に押し寄せている事が発覚した。
「彼等は自分達を受け入れるように申し込み、領主様もお認めになられました。しかし、彼等の話を聞くところによるとグツグ火山の方で大きな異変が起きたそうです」
「それは分かってますわ、マグマゴーレムの事ですわね」
「いえ、それが……実は彼等が村から避難した日に隕石が火山の火口に落ちたようです」
「隕石?」
警備隊長の話を聞いてナイとドリスは呆気に取られ、彼はグツグ火山の鍛冶師から聞いた情報を事細かに伝える――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます