異伝 《ナイVSドリス》
――フィルとガオウがほんの少しだけ打ち解けあった頃、ナイは走り込みの訓練を終えてドリスと共に今度は実戦訓練を行う。二人は城壁の外に出ると、騎士団に囲まれる中でお互いの武器を向け合う。
「遠慮は無用ですわ!!全力で来てください、ナイさん!!」
「あ、はい……分かりました」
ドリスは魔槍「真紅」を構えると、ナイは旋斧を両手で握りしめて構える。彼女との戦いでは岩砕剣では不利と判断し、ここは旋斧だけで戦う事を決める。
両者が武器を構えると周囲で見守る騎士達は冷や汗を流し、どちらが先に動くのかと緊張する。ドリスと向かい合うようにナイは旋斧を構えていると、先に仕掛けたのはドリスからだった。
「先手は頂きますわ!!」
「くっ!?」
ナイに目掛けてドリスは一直線に駆け出すと、この時に彼女の真紅の柄の部分からロケット噴射の如く火属性の魔力が噴き出し、加速しながらナイの元へ向かう。
ドリスの真紅は火属性の魔力を利用して「爆炎」を生み出す事ができるが、ヒイロの「烈火」と違って彼女の槍は柄の部分からも爆炎を放出できる。それを利用してドリスは瞬間的に超加速して攻撃を繰り出せる。
「せいりゃあああっ!!」
「くっ……剛力!!」
まともに受ければ耐え切れないと判断したナイは剛力の技能を発動さえ、筋力を強化させて旋斧を構える。反魔の盾を利用すれば正面から攻撃を跳ね返す事もできるのだが、今の彼は理由があって反魔の盾を所有していない。
旋斧を盾代わりにしてナイはドリスの繰り出した真紅を受け止めると、数歩ほど後退るが吹き飛ばされる事もなく耐え凌ぐ。ドリスは自分の攻撃を正面から受けて耐え抜いたナイに驚くが、そんな彼女にナイは旋斧を逆に押し返す。
「でやぁっ!!」
「くぅっ!?」
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
「ドリス様の爆槍を受け切っただと!?」
「有り得ない!!」
ドリスは槍を弾かれて後退すると、彼女を見守っていた騎士達は驚愕の声を上げる。その一方でナイは隙を見せたドリスに旋斧を振りかざすが、寸前で嫌な予感がしてナイは追撃を止めた。
「爆裂!!」
「うわぁっ!?」
攻撃を仕掛けようとしたナイに対してドリスは咄嗟に真紅を振り払い、この時に彼女は刃先から爆炎を放つ。もしもナイが不用意に近付いていたら爆炎の餌食となっていたかもしれず、慌てて二人とも距離を取る。
「はあっ、はあっ……まさか私の爆槍を受けるなんて、流石にやりますわね」
「こ、こっちも驚かされました……」
「ですが、私には奥の手がありますわ!!」
距離を取るとドリスは真紅を両手で掴み、地面に向けて刃先を突き刺す。その行為にナイは疑問を抱くが、彼女は周囲の騎士達に注意する。
「貴方達!!巻き込まれたくなかったら離れなてくださいましっ!!」
「ましっ!?」
「ま、まずい!!」
「避けろぉっ!!」
ドリスの命令を聞いた途端に周囲を取り囲んでいた騎士達は顔色を変えてその場を離れると、ナイも只事ではないと思って咄嗟に岩砕剣も抜く。ドリスは地面に真紅の刃先を突き刺した状態で気合の込めた声を放つ。
「爆砕!!」
「うわぁっ!?」
「ひいいっ!?」
「伏せろぉっ!?」
地面に突き刺した状態でドリスは爆炎を生み出すと、地中が爆発した事で土砂が吹き飛び、周囲に熱した砂や石が飛び散る。反射的にナイは二つの大剣を重ね合わせて盾代わりに利用する事で跳んでくる小石を防ぐ。
爆発した箇所から煙が盛り上がってドリスの姿は見えなくなり、攻撃が止むとナイは大剣を引き抜いて構えようとした。しかし、ナイが完全に体勢を整える前にドリスは煙を振り払って出現した。
「これで終わりですわ!!」
「くっ!?」
煙の中から現れたドリスはナイが体勢を整える前に彼に真紅を突き出し、この時に彼女は先ほどのように加速は行わず、その代わりに刃先がナイの元に届いた瞬間に爆炎を生み出すつもりだった。
ドリスの真紅は爆炎は一か所しか噴き出せない弱点があり、例えば柄の部分から爆炎を生み出して加速している状態では刃先から爆炎を生み出す事ができない。逆も然りで彼女の真紅は刃先か柄のどちらかにしか爆炎を放出できない。
先にドリスが柄の部分から爆炎を生み出して加速した際、ナイは攻撃を受ける事に成功した。しかし、今回の攻撃は刃先がナイの身体かあるいは武器に届いた瞬間に爆炎が発生し、そうなれば至近距離から爆発を受ける事になる。
(まずい!!どうにかしないと……)
迫りくるドリスに対してナイは攻撃を受けるか、あるいは回避するか思い悩む。仮に回避に専念すればドリスの攻撃を避けられるかもしれないが、その場合は武器を手放す必要がある。しかし、その場合だと武器を失ったナイにはドリスの対抗手段を失う。
逆に攻撃を受ける場合は武器越しに爆発を受けて吹き飛び、戦闘不能に陥る。どちらを選んでもナイに勝ち筋は見えず、それならばと彼は「迎撃」の技能を発動させて反撃にでた。
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