異伝 《残るのは……》
「ナイか……戦力的には問題ないが、大丈夫なのか?ここまでの旅で一番疲れているとしたらお前だろう?」
「大丈夫ですよ、飛行船に居る間はずっと休んでましたし……それにイリアさんが色々と薬くれたお陰で体調は万全です」
「……イリア?」
「いやいや、別に怪しい実験をしていたわけじゃないですよ。私が作った疲労回復の効果がある薬の試薬を頼んでただけです」
『十分怪しい!!』
イリアの言葉に船内の人間全員がツッコミを入れるが、彼女が作った薬の効果なのかナイは他の人間と比べても疲労は感じられなかった。
それでもここまでの旅路で一番無理をさせた彼を残す事にバッシュは後ろめたさを覚え、討伐隊の中での最大戦力はナイで間違いはない。仮に先日の襲撃の際にナイが残っていればロックゴーレムの集団だろうとトロールの群れであろうと対処できたはずだった。
「本来の予定では王都に戻り次第、論功行賞を行うつもりだったが……それは全員が戻るまで後回しにしよう。だが、先に報酬だけを受け取りたい人間がいれば遠慮なく行ってくれ」
「もうナイさんには先に2、3個ぐらい勲章をあげたらどうです?」
「簡単に言うな……まあ、それだけの功績を上げたのは確かだが」
ゴノの魔物の襲撃の問題がなければ討伐隊は王都へ帰還し、その後は日にちを置いて論功行賞を行う手筈だった。今回の最大の功績のナイには新しい勲章と報酬が与えられるはずだったが、彼が戻らないのであれば論功行賞は行えない。
最大の功績者が欠席の状態では論功行賞も盛り上がらず、民衆も納得しない。論功行賞は功績を上げた人間に褒美を与えるだけではなく、誰がどのような功績を上げたのかを他の人間に知らしめるためにも必要な式典である。
「……ナイが残るなら私達も残った方がいい」
「そうですね、またナイさんだけに苦労を掛けるのは心苦しいですし……」
「あ、それなら僕も!!」
「おいおい、何人残るつもりだよ」
ナイが残る事を告げるとヒイロとミイナもリーナも残ろうとしたが、呆れた様子でガオウが肩をすくめる。彼の言葉にバッシュも賛同し、必要以上にゴノに戦力を残す事はできない。
「今回の遠征で王都の戦力を大分割いてしまった。我々は一刻も早く戻らなければならない……それにグマグ火山の件もある、これ以上に戦力を割くわけにはいかない」
「確かにグマグ火山のマグマゴーレムに対処できるとしたら、リーナの魔槍が一番心強いからのう。残念じゃがお主は残る事は認められんぞ」
「ええっ!?」
マホの言葉にリーナは衝撃を受けた表情を浮かべるが、冷気と氷を作り出せる蒼月はマグマゴーレムとの戦闘で一番頼りになるのは間違いない。
「ヒイロとミイナもアルトの護衛である事は忘れるな。お前達がいなければアルトの護衛は誰がする」
「あっ……忘れてた」
「そういえば王子もいましたね」
「君達……それはひどくないか」
最近はアルトがイリアと一緒にいる事が多くて忘れられていたが、白狼騎士団に所属するヒイロとミイナは元々は彼の護衛騎士であり、二人が居なければアルトの護衛は誰も行えない。
ゴノに残るのはナイ、ガオウ、ドリスと彼女の率いる黒狼騎士団の精鋭という事になり、戦力的に考えれば十分だった。しかし、話がまとまりかけた時にフィルが挙手して異議を申し立てる。
「待ってください!!僕もゴノに残っては駄目でしょうか?」
「何?」
「あん?何言ってんだお前?」
フィルの申し出に他の者たちは意外な表情を浮かべ、彼とは仲が悪いガオウはあからさまに顔をしかめるが、この状況でフィルもふざけるつもりはない。
「お願いします、僕はゴノに何日も滞在して周辺の地理も把握しています。もしも敵が現れたとしても必ず役に立てます!!少なくともそこの男よりは!!」
「喧嘩売ってんのかてめえっ!!」
「落ち着け……ふむ、君も確か黄金冒険者だったな」
自分の方が役に立てる事を訴えるフィルに対してガオウは噛みつこうとしたが、彼の言葉を聞いてバッシュは悩む。黄金冒険者は大きな戦力であり、そんな彼がゴノに残るのであれば安心はできる。
どうしてフィルがゴノに残る事を訴えたのかというと、それはナイがゴノに残るからだった。以前のフィルはナイに対して敵対心を剥き出しにしていたが、ポイズンタートルの一件で彼の評価を見直し、同時に自分の未熟さを思い知らされた。
今のフィルはナイに対して敬意を抱き、同時に失態を犯した自分を恥じていた。汚名返上するためにフィルはナイの傍に残り、先日の失態を覆す活躍をする事で彼に見直して貰いたいとまで思う。
「……ではゴノの街に残るのは――」
――バッシュは考えた末にゴノに残る面子の名前を告げ、他の者たちは飛行船で王都へ帰還した。
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