異伝 《合流》

――時は流れ、アチイ砂漠から帰還した飛行船スカイシャーク二号機はゴノの街へと到着する。飛行船が辿り着いた時にはマホも回復し、街も平和を取り戻していた。



「そうか……我々がいない間にそんな事が起きていたか」

「うむ、お主等も大分苦労したようじゃな」



着陸した飛行船の船内でバッシュはマホと情報交換を行い、バッシュは王国と巨人国の連合軍が土鯨を撃破した事を伝え、マホはゴノの街でもロックゴーレムが襲撃した事を伝える。


アチイ砂漠の問題が解決した以上、これからは王国内の問題の解決に専念しなければならない。バッシュは机の上に王国全土の地図を広げると、いくつかの箇所に印を刻む。



「問題があるとすれば……グマグ火山とグツグ火山で発見されたマグマゴーレムの大量発生、それとゴノの街を襲撃したトロールとロックゴーレムの集団か」

「ゴノの街を襲撃した魔物達は間違いなく、魔物使いに操られていた形跡が残っておる。つまり、人為的に引き起こされた事態という事じゃ」

「要するにどこぞの馬鹿が王国に喧嘩を売ったという事だろ?」



二人の会話にガオウが割込み、彼の言葉に他の者も否定はしない。状況的に考えても何者かがトロールとロックゴーレムを操って街を襲撃した事は確かだった。



「魔物使いの手掛かりと言えば死骸に刻まれた紋様……それと商団を襲った時もこれ見よがしにこの紋様を書き残してから消えおった」

「いったい何のつもりでしょうか……犯人の目的が分かりません」

「いずれにしろ、この魔物使いはバートンの関係者という事は間違いない、か」



バッシュは腕を組んで地図上に記した3つの印に視線を向け、まずはどれから対処するべきか悩む。ゴノの街がロックゴーレムの襲撃を受けてから大分日にちも経過しており、既に犯人はこの地を去った可能性がある以上、今更調査をしても犯人の行方を掴むのは難しい。


一応は魔物の襲撃を受けた後もマホ達は魔物使いの調査を行ったが、有力な手掛かりは一切掴めなかった。トロールやロックゴーレムの捜索も行ったが、結局は見つからずに今日まで何も起きなかった。



「魔物使いの事は気になるが、火山の事も放置はできん。グマグ火山もグツグ火山も我が国の重要な資源だ。早急に対処しなければならん」

「といってもどういう風に対処するんですか?相手は普通のゴーレムじゃなくてマグマゴーレムですよ。ちゃんとした対抗策を用意しないと危険な相手です。王子は何か策が思いついたんですか?」

「…………」



イリアの言葉に流石のバッシュも何も言い返せず、通常種のゴーレムならばともかく、マグマゴーレムは全身が溶岩で構成された厄介な魔物だった。


マグマゴーレムとの戦闘の場合、高熱に耐性がある武具と防具を身に付けなければ戦えない。特にナイのような物理特化型の戦士の場合は相性が悪く、もしも戦う場合はリーナのような氷を操れる魔剣使いの方が相性が良い。



「王子、儂等もここまでの旅路で大分疲労が蓄積されておる。いくら薬の類で身体を治す事ができても、疲労はどうしようもできん」

「爺さんも年齢だからな、長旅はきついか……あいてっ!?」

「……お主に年寄り扱いされると無性に腹が立つな」



ここまで飛行船の運転と船の整備を任せられていたハマーンは休息を挟む事を申し込み、彼の言う通りにアチイ砂漠に出向いた者達は疲労が蓄積されていた。この疲労とは肉体の疲労だけではなく、精神的な疲労を意味する。


今回の旅路でナイ達は様々な魔物と対峙し、討伐や撃退を行ってきた。飛行船で移動中も警戒を緩めず、船の整備や戦闘訓練も行ってきたので兵士達も疲れが溜まっていた。その事をバッシュは知ると、彼もこれ以上に兵士達に無理をさせてはならないと判断した。



「……とりあえずは王都へ戻り、これまでの出来事を陛下に報告する。問題の解決はその後でいいだろう」

「やった!!家に帰れるんだ!!」

「ですが、ゴノの街は放置していいのですか?また襲われたら……」



バッシュの言葉にリーナは久々に王都に戻れる事を嬉しく思うが、ヒイロは魔物が襲撃を受けたゴノを放置する事に不安を抱く。しかし、その点も考えた上でバッシュは全員に尋ねる。



「無論、ゴノには十分な戦力を残しておく。誰かゴノに残っても問題ない者はいるか?」

「そういう事なら俺は残っていいぜ?ずっと船の中にいたせいで身体が鈍っちまう」

「私も残りますわ」



黄金冒険者のガオウと黒狼騎士団の副団長であるドリスが名乗りを上げ、この二人ならばゴノの街を守護するのに十分な戦力だと思われるが、念のためにあと一人だけ残す事にした。



「もう一人、誰か残ってもいいという者はいないか?」

「あ、それなら僕も残りますよ」

「えっ!?」



ナイが名乗り上げた途端、家に戻れると喜んでいたリーナが驚きの声を上げる。彼女としてはナイと共に王都へ戻りたいと思っていたが、彼がここに残るとなると話は別である。

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