異伝 《退散》

『ゴォオオオッ……!!』

「な、なんだ!?」

「こ、こいつら……止まったぞ?」

「どうなってるんだ!?」



兵士や冒険者に攻撃を繰り出していたロックゴーレムの集団が唐突に停止し、その様子を見て戦っていた者達は戸惑う。城壁の上に立っていたエルマも異変に気付き、何が起きたのかと戸惑う。


何時の間にか時刻は夕方を迎えていたらしく、ロックゴーレム達は太陽が沈む光景を確認すると、その場で地面を掘り始める。その行為に兵士と冒険者は唖然とするが、ロックゴーレムは地面の中に潜り込む。



「な、何だ!?こいつら、何をしてるんだ!?」

「まさか……逃げたのか!?」

「いったいどうして……」



戦況を有利に運んでいたにも関わらず、ロックゴーレムの集団が地面に潜り込んで姿を消した事に誰もが戸惑う。エルマも何が起きたのか理解できなかったが、敵が消えた瞬間に緊張の糸が切れたのか大勢の人間がその場にへたり込む。



(……勝った?)



状況的に考えれば街を襲撃したロックゴーレムは退散し、被害はあったが無事に街を守り通す事はできた。エルマは自分の矢を撃ち尽くしている事に気付き、もしも戦闘が続行していればと思うとぞっとした。


彼女の扱う矢は普通の矢ではなく、事前に魔力が込めやすいように紋様を刻む。つまり、矢を失っていれば彼女は戦う事はできなかった。だからロックゴーレムが退いて一番命拾いしたのは彼女かもしれない。



(いったいどうして……)



ロックゴーレムが退いた事でエルマは安心したが、あまり喜んでばかりはいられない。本当にロックゴーレムが退散したのかは分からず、もしかしたら自分達の隙を伺うために隠れただけかもしれないと彼女は警戒する。


しかし、エルマの予想に反してその日はいくら待とうとロックゴーレムが現れる事はなく、無事に夜を迎える事ができた――






――城壁の防衛に成功したマホ達は街を収める領主の屋敷に招かれ、身体を休める事にした。3人とも疲労困憊だったが、特にマホの方は二つの城壁の守護のために無理をして魔力を使いすぎてしまう。


ベッドに横たわったマホの元にエルマとフィルは訪れ、城壁で起きた出来事を話す。エルマが守護した西側の城壁以外でも同時刻にロックゴーレムの集団が退散したらしく、それを知ったマホは難しい表情を浮かべる。



「そうか……夕方を迎えた途端にロックゴーレム共は退いたという事か」

「いったい、奴等は何だったのでしょうか……」

「私の目には太陽が下りる前にロックゴーレムが逃げた様に見えましたが……」



街を襲撃してきたロックゴーレムの集団が退散した理由は未だに分からず、現在は倒す事に成功したロックゴーレムの調査を行っていた。



「こちらがマホ魔導士が破壊したロックゴーレムの残骸から発見された核です……壊れた破片を繋ぎとめた結果、やはり紋様が刻まれていたようです」

「おおっ、よく直せたのう」

「老師、この紋様は……」



兵士が集めた核の残骸を繋ぎ合わせた結果、街を襲撃したロックゴーレムの核には紋様が刻まれていた。しかも以前に発見した魔物の死体と同じく、死んだはずのバートンの「鞭の紋様」で間違いない。



「これはどういう事でしょうか?あのロックゴーレム達は魔物使いに操られていたという事でしょうか?」

「待ってください!!生身の生物ならばともかく、ロックゴーレムのような魔物も魔物使いは操れるのですか!?」

「うむ……前例がなかったわけではない」



魔物使いが操れるのは生身の肉体を持つ魔物だけではなく、ゴーレム種の様な生身の肉体を持たない存在も従える事が発覚した。但し、ゴーレム種の場合は本体の核その物に紋様を施す必要があり、その方法は決して簡単ではない。


街を襲撃したロックゴーレムの3分の1はマホが倒したが、その全てのゴーレムの核に紋様が刻まれていた形跡があった。この事から「鞭の紋様」は只の模様シンボルではなく、魔物使いが魔物を服従する際に刻む必要がある印の可能性が出てきた。



「老師、これからどうしますか?」

「どうするも何もこの状態ではまともに戦う事もできん……こんな事ならばゴンザレスとガロも呼べば良かったな」

「もしも奴等がまた現れたら……」

「その時は……覚悟する必要があるのう」



今回の襲撃を乗り越えられたのは運が良かったとしか言いようがなく、再びロックゴーレムの集団が襲撃を仕掛けたら今度は防ぐ手立てはない。頼りになる魔導士のマホは魔力切れで碌に身体も動けず、フィルもエルマだけでは対処はできない。


しかし、3人の不安とは裏腹にその日を境にゴノの街が襲われる事態は訪れずなかった――





※12時公開するはずでしたが間に合いませんでした(´;ω;`)

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