異伝 《冒険者の意地》
「――回転鋏!!」
「ゴアアッ!?」
「ゴオッ!?」
東側の城壁ではフィルは鎖の魔剣を手にしてロックゴーレムの攻撃を仕掛け、回転を加える事で加速した魔剣を放つ。鎖の先端に取り付けられた刃がロックゴーレムを切り刻む。
鋼鉄の程度の硬度の武器ではロックゴーレムには通じないが、フィルの所有する鎖の魔剣は魔法金属製であるため、ロックゴーレムの外殻であろうと破壊できる。しかし、核を破壊しなければ完全に倒す事はできず、いくら切り刻まれようとロックゴーレムは起き上がって再生する。
「ゴオオオッ!!」
「ちぃっ……しつこい奴等だ」
「も、もう駄目だ!!逃げるぞ!!」
「こんなの勝てっこない!!」
フィル以外の冒険者達はいくら損傷を与えようと再生して襲い掛かってくるロックゴーレムに恐れを為し、中には逃げ出そうとする者もいた。しかし、そんな者達に対してフィルは怒声をあげる。
「諦めるな!!魔物に怯える冒険者が何処にいる!?」
「そ、そんな事を言われても……」
「いいから戦え!!ここで僕達が踏ん張らなければ街の人間に被害が及ぶ!!それでも君達は冒険者か!?」
「くっ……よ、余所者にここまで言われて黙ってられるか!!」
冒険者達はフィルの言葉を聞いて士気が上がり、最後まで諦めずに戦う決意を固める。そんな彼等に対してフィルは内心では後ろめたさを覚えた。
(くそっ……他の黄金冒険者ならここまで苦労する事はなかっただろうな)
王都で活動している黄金冒険者はガオウ、リーナ、ゴウカ、マリン、フィル、そして現在は引退したハマーンを含めると6人存在する。この中で実力順ではフィルは下から数えた方が高い。
仮にこの現場にリーナが居れば蒼月の能力でロックゴーレムを氷漬けにする事ができる。ゴウカに至っては力ずくでロックゴーレムを粉砕し、マリンならば高火力の魔法で対処できると思われた。
残されたハマーンにしろガオウにしろ、フィルよりも上手く立ち回って現在の状況を打破できたかもしれない。そして先日までフィルが敵視していたナイが居たとしたら、彼の腕力ならばロックゴーレムを核どころか肉体その物を粉砕して倒す光景がッ安易に想像できた。
(僕に彼のような力があれば……いや、何を考えているんだ!!)
いくら追い詰められているとはいえ、この場には存在しない人間の助けを求めている事にフィルは自分自身を叱咤する。いくら願ったところでナイ達が戻ってくる事は有り得ず、この状況を打破できるのは自分達しかいない。
「ゴオオッ!!」
「くっ……うおおおおっ!!」
迫りくるロックゴーレムに対してフィルは鎖の魔剣を振りかざし、体力の限界を迎えるまで彼は戦い続ける――
――同時刻、西側の城壁ではエルマは地上に存在するロックゴーレムに目掛けて矢を放ち、彼女は矢を撃ち込む際に必ず矢に魔力を纏わせて放つ。
「いい加減に……くたばりなさいっ!!」
「ゴアッ!?」
「ゴオッ!?」
「ゴガァッ!?」
的確にエルマはロックゴーレムの頭部に目掛けて矢を放ち、彼女の放った矢には風属性の魔力が纏う。標的に矢が的中した瞬間、纏っていた魔力が一気に拡散して衝撃波を生み出す。
エルマの「魔弓術」は実は二つの戦法が存在し、一つ目は風の魔力を渦巻状に矢の先端に纏わせ、削岩機の如く相手の肉体を削り取る「螺旋弾」そしてもう一つは相手に的中した瞬間に魔力を一気に解放して至近距離で衝撃波を生み出す「風爆」この二つを使い分けてエルマはロックゴーレムを追い詰める。
(私は師匠のように魔法は使えない……けど、
生憎とエルマは師であるマホと比べて魔術師としての才能はなく、その代わりに彼女は子供の頃から鍛えてきた弓の腕には自信があった。彼女は自分の魔法と弓の腕を組み合わせた「魔弓術」を作り出し、それを生かして今まで戦ってきた。
(螺旋弾ならゴーレムの外殻を貫けるだろうけど……核の位置を正確に掴めないと倒せない)
貫通力が高い螺旋弾ならばロックゴーレムの外殻を破壊する事は容易いが、威力を上げるために攻撃範囲が狭めたせいで核を適確に貫かなければ倒せない。そのためにエルマは攻撃方法を風爆へと切り替える。
(風爆なら内部から衝撃波を発生させてロックゴーレムの肉体を砕ける!!勿論、核を壊さなければ再生するけど……時間は稼げる!!)
エルマは風爆を連発する理由はロックゴーレムを倒すのが目的ではなく、あくまでも時間稼ぎのためだった。彼女の矢がロックゴーレムの肉体に触れる度に衝撃波が発生し、肉体の一部が破損して一時的に戦闘不能に陥る。その間に他の者が戦闘態勢を整えればエルマからすれば十分だった。
「援軍はまだですか!?」
「い、今街から兵士を呼んでいます!!もうすぐ辿り着くはずです!!」
「急いでください!!何時まで持つかどうか……!!」
城壁の兵士の言葉にエルマは早く兵士が訪れる事を願うが、この時に彼女が退治していた地上のロックゴーレムの集団に異変が起きた。
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