過去編 《隠れ里》
――シノビ一族が代々管理していた里は魔物に滅ぼされてから10年後、父親の意思を継いで「シノビ」の名前を継承したサルトビは妹のクノを連れて戻ってきた。
「ここが……拙者達の故郷でござるか?」
「……そうだ」
クノが10才を迎えるとシノビは隠れ里へと戻り、崩壊した里には人が戻ってきた様子はなかった。10年前の魔物の襲撃の際、生き残ったのは前当主であるシノビと彼の子供であるシノビとクノだけだった。
魔物の襲撃を受けた際に村の人間は殆ど殺され、結局は里を脱出できたシノビ(サルトビ)の父親も魔物から受けた怪我が原因で死んでしまった。残されたシノビはクノを一人で育て上げ、彼女が10才の誕生日を迎えた時に里へ戻る。
「人の気配も魔物の気配も感じないでござるな」
「ゴブリン辺りが住み着いているかと思ったが……杞憂だったか」
10年前の襲撃で村人はシノビの家族を除いて全員が皆殺しされているはずであり、村を襲った魔物達は姿を消してしまったらしい。住民がいなくなった後の里には誰も立ち寄った様子は見られず、ゴブリンなどの魔物が住処に利用している様子もない。
「どうして急に魔物が襲ってきたのか理由は分からないのでござるか?」
「あの時は俺達も逃げるのに必死だった……だが、魔物が急速に数を増やしているという報告は父も受けていたはずだ」
里が襲撃される前から周辺では魔物がよく見かけるようになったという報告は受けていたが、この里は周囲を山々に囲まれており、王国の人間には気づかれないように密かに築かれた里である。
仮に王国の民が暮らす村に魔物が襲ってきた場合、税金を納めていれば国から兵士が派遣されて村の警護を請け負ってくれる。場合によっては冒険者ギルドに頼って魔物の退治も依頼できるが、シノビ一族の治める里は王国の許可なく勝手に築き上げたせいで王国や冒険者に力を借りる事はできなかった。
王国からすれば自国の領地内で勝手に里を築かれては黙っておられず、場合によっては里から税を徴収する可能性もあった。他の街の冒険者にもこの里の存在を知られると色々と厄介な事になるため、結局は里の住民は外部の人間に助けを求める事ができず、魔物に襲われてほぼ全員が死んでしまった。
「兄上、拙者達の家は何処にあったのでござる?」
「あそこだ……見た所で何もないぞ」
シノビ一族が暮らしていた屋敷は魔物の襲撃の際に燃えてしまい、建物は燃え崩れて見る影もなかった。完全に焼け崩れた建物を見てクノは唖然とするが、シノビは建物が燃えた原因は魔物の仕業ではない事を説明する。
「この建物を焼いたのは父上だ」
「えっ!?どうしてでござる!?」
「この屋敷には和国の歴史書や秘伝書が残されている。その中には外部の人間に知られたまずい資料もある……だからこそ父上は屋敷を燃やして処分したのだ」
「そんな……」
「だが、一番肝心な巻物は俺が預かっている」
屋敷の中に保管されていた和国の歴史書の類は父親が里を脱出する前に燃やされ、唯一に脱出の際に父親が持ち返ったのはシノビ一族にの当主に代々伝わる巻物だった。
この巻物には和国の時代に作り出された大量の「妖刀(魔剣)」が保管された場所が記されており、これだけは手放せずに屋敷を抜け出す際に持ち返った。シノビの父親が事切れる寸前、息子のサルトビに巻物を託した。
(この巻物の暗号を読み解く事ができれば……まだ手がかりが残っているかもしれん)
シノビはこの地に戻ってきた理由、それは妹に里を見せるためだけではなく、巻物の暗号を読み解く手がかりを探すためだった。巻物を調べた結果、暗号文が記されている事は分かったが、その暗号文を解く事ができなかった。
この時代のシノビは知らない事だが、実は彼が所有する巻物以外にもう1つだけ巻物が存在し、この二つの巻物を揃えないと妖刀が保管されている場所には辿り着けない仕組みだった。しかし、その事を知らずにシノビは里へ戻り、暗号を解く手がかりを探す。
「クノ、何か見つけたらすぐに俺に知らせろ」
「分かったでござる……しかし、本当に何もないでござるな」
「……そうだな」
クノの何気ない言葉にシノビは自嘲するしかなく、彼女は知らない事だが10年前まではこの里は活気に満ち溢れていた。妹が自分以外の忍を知らずに育った事に寂しく思うが、今は悲しんでいる暇はない。
この日はシノビとクノは里の中で一晩過ごすが、収穫は何も得られずに退散する事になった。それでもシノビは10年ぶりの帰郷を果たし、妹に里を見せる事ができた事に満足した――
※切ない話です……(´;ω;`)
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