過去編 《少女のその後》
――王国の歴史の中でも最悪の殺人鬼として語り継がれるアルバートンは聖女騎士団の手で葬られた。しかし、彼が経営していた孤児院の子供は一人を除いて全員が犠牲になる。
ただ一人だけ生き残った少女は王国が手厚く保護したが、ある時に彼女は姿を消してしまう。捜索は行われたが彼女は発見には至らず、人々の間ではアルバートンの呪いで少女は死んでしまったのではないかと噂される。
しかし、少女は呪われたわけでもなければ何者かに攫われたわけでもなく、彼女は自分の意思で都を離れ、辺境の地に辿り着く。
「……こんな場所に村があるなんてね」
「ギギィッ……」
成長した少女が辿り着いた場所は王国の辺境に存在する小さな村であり、彼女の傍にはゴブリンの姿があった。本来ならば人間に害を為すゴブリンだが、彼女はアルバートンから授かった技術でゴブリンを従える。
――実は少女の正体はアルバートンの実の娘であり、彼女は父親と同じように「魔物使い」の才能を持っていた。彼女は魔物使いの才能を生かしてゴブリンを従えさせ、共に旅をしてきた。
彼女の本当の名前は「アン」この世界ではありきたりな名前で、彼女を生んだ母親が覚えやすい名前という理由で名付けた。彼女は両親から愛されていたとはいえず、小さい頃にアンは母親に捨てられ、偶然にも実の父親が経営する孤児院に預けられる。
アルバートンは彼女の母親とは結婚せず、そもそも娘が居た事も知らなかった。彼が身分を偽って暮らしていた時に母親と出会い、自分達が同じような境遇である事を知って意気投合して関係を持つ。
しかし、アンの母親が身籠った時にはアルバートンは事件を起こして姿を消してしまい、母親は自分の相手が犯罪者だと知って衝撃を受ける。相手が相手だけに周囲の人間も助けてくれず、彼女は結局は産んだ子供を捨てて逃げてしまう。
捨てられたアンはしばらくは母親の親族に育てられていたが、犯罪者の娘だと気持ち悪がられて結局は孤児院に預けられた。アルバートンはアンと遭遇した時、彼女の出生を聞いてすぐに自分が関係を築いた女の娘だと気付く。
『まさか子供を産んでいたとは……だが、これはこれで面白い』
孤児院の経営者としてアルバートンは他の人間に怪しまれないために表向きは優しい人間を演じていたが、実の娘であるアンにだけは本性を晒す。彼はアンが自分と同じく魔物使いの才能を持ち合わせている事に気付くと、彼は気まぐれにアンの才能を鍛える事にした。
『我々には生まれ持った才がある。それを生かさずに隠して暮らすなど愚かな事だとは思わないか?』
アンはアルバートンから直々に指導を受け、魔物を従えさせる方法を教わる。父親以上にアンは魔物使いの才能があったらしく、たった1年で彼女は父親を越える魔物使いとなった。
しかし、父親から魔物使いの技術を授かったアンはこれ以上に彼から学ぶ事はないと判断すると、即座にアンはアルバートンが思いもよらぬ行動を起こす。彼女は聖女騎士団に手紙を書いて送り込み、アルバートンの正体を知らせる。
『貴様……何のつもりだ!!この私に逆らうつもりか!?』
『逆らう?おかしな事を言わないで、用済みになったら捨てるのは当たり前でしょ?貴方だって私の母親を捨てた癖に……』
『おのれ……!!』
聖女騎士団が孤児院に到着した日の早朝、アルバートンはアンの企みに気付いた。彼はアンが自分を裏切った事に憤るが、彼女を殺そうにも既にアンは父親以上の存在と化していた。
『大丈夫、貴方は私の言う事に従っていれば死にはしないわ』
『貴様……何を考えている!?』
『言い争っている暇はないんじゃないかしら……もうそろそろ騎士団が辿り着く頃よ』
『ちぃっ……!!』
聖女騎士団が自分の元に迫っている事を知ったアルバートンは凶行を行い、自分が捕まる前に孤児院の子供達を殺しつくす。だが、手を下したのは確かに彼だが子供達が死ぬように仕向けたのは間違いなくアンだった。
『お前、気持ち悪いな……いつも鼠に餌をやってるだろ』
『あんた何を考えてるのよ……不気味ね』
『こっちに来るな!!』
孤児院に拾われた時、アンは他の子供達に馴染めずに彼等からいじめられていた。実の母親から捨てられ、再会した父親は自分の事を娘だとは思わず、せいぜい使い勝手のいい道具に育て上げようとした。そして孤児院の子供達からも受け入れられなかったアンは復讐を誓う。
『全て……壊してやるわ』
アンは父親から魔物使いの技術を学び、これ以上に彼から教わる事はないと判断すると聖女騎士団を利用して彼を追い詰める。この時に孤児院の子供達を父親に殺害させる事でアンは復讐を果たし、そして父親を悪役に仕立て上げて彼女は自分をたった一人だけ生き残った被害者として誰からも怪しまれずに生き延びる事に成功した――
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