過去編 《悪魔の子》

過去編 《王妃の元に届いた手紙》

――時は遡り、まだ聖女騎士団が健在だった時代、王妃でありながら聖女騎士団団長を務めていたジャンヌの元に手紙が届く。送り主はとある街の孤児院に暮らす少女からの手紙であり、彼女は子供達から送られる手紙だけは必ず目を通していた。


当時の聖女騎士団は王国一の騎士団として有名なため、彼女達に憧れて手紙を送る子供達は後を絶えなかった。そして子供好きのジャンヌは手紙の主が子供の場合、必ず忙しい時でも手紙を読むようにしていた。



「ここが例の手紙に書かれていた孤児院みたいね」

「なあ、王妃様……本当にその手紙に書いてあることが事実だと思ってるのかい?もしかしたらただの悪戯かもしれないんだよ」



ジャンヌの元に送り付けられた手紙は助けを求める内容だった。手紙の送り主は孤児院に暮らす少女からであり、その内容とは孤児院の経営者が秘密裏に孤児院の子供達を殺していると書かれており、その事実を確かめるためにジャンヌはわざわざ忙しい中、数名の団員と若かりし頃のテンを引き連れて孤児院に訪れる。



「団長、住民に聞き込みを行った限りではこの孤児院の経営者はアルバートンという中年男性で数年程前にこの街に訪れた人物だそうです。街の人間からは人格者として慕われているようです」

「ほらな、やっぱり王妃様に送られた手紙はただの悪戯だよ」

「……私はそうは思えないわ」



事前に団員が孤児院の経営者の評判を調べたところ、特に怪しい点は一切見つからなかった。だからこそ王妃以外の者達は子供が悪戯で書いた手紙が届けられたと思っていた。


しかし、ジャンヌは受け取った手紙の文章を見た時から違和感を抱き、彼女は他の団員に手紙を見せつける。彼女が気になったのは手紙に記されている内容ではなく、文章を構成する「文字」が気になった。



「この手紙を書いてくれた女の子は10才、この国では孤児院の子供達は6才から文字の読み書きを学ぶ決まりなのよ。なのに、この手紙に記されている文字を見て不思議に思わない?」

「不思議?まあ、確かに文字はへたくそですけど……」

「敬愛する王妃様に書く手紙なのだから緊張して上手く書けなかっただけでは?」



ジャンヌの元に送り付けられた手紙の文字はお世辞にも上手に書けているとは言えず、まるで文字を覚えたての子供が書いたように汚い文字だった。一応は読める程度に書き記されており、最初もジャンヌは幼い子供が書いたのかと思ったが文章の内容を確認するととても小さな子供が書いたとは思えないという。



「この手紙は文字は読みにくいけど、文法は正しく書かれているし、それに小さな子供が自分の孤児院の経営者が殺人鬼なんて質の悪い手紙を書くと思う?」

「それはまあ……子供だから嫌いな大人の悪口を書く事だってあるんじゃないですか?それに王妃様に本当に読んでもらえるとは思わずに書いたのかもしれないし……」

「私はそうは思わないわ。これはただの勘だけど……この手紙の子は酷く怯えた状態で文字を書いたのじゃないかしら」

「怯えて?」

「例えば……この手紙に書いてある通りに経営者が悪人で、それに気づいた子供が私に助けを求めるために手紙を書いて送ったとかね」

「じゃあ、文字が汚いのはその経営者に怯えていた手紙を書いたという事ですか?そんなまさか……」

「……ただの勘だけど、私はこの手紙の子が嘘をついているとは思えない」



ジャンヌの言葉にただの子供の悪戯だと思い込んでいた団員達は黙り込み、正直に言えばジャンヌ自身も自分の言葉には自信は持てなかった。しかし、こういう時の彼女の勘は外れた事はなく、緊張感を抱きながらジャンヌ達は孤児院へと訪れる。



「まあ、とりあえずはその孤児院の経営者とやらに会いましょうか。直接会って話をしたらそいつが悪人かどうか見抜けるかもしれませんし」

「そうね……」

「ただの悪戯だったら手紙を書いたガキの尻を引っぱたけばいいだけですよ」

「もう……乱暴は駄目よ?相手は子供なんだから」



テンの言葉にジャンヌも他の団員達も緊張感が解れ、これがただの子供の悪戯ならば取り越し苦労で済む。ジャンヌ本人も手紙に怪しさを感じながらも心の何処かでは自分の勘が外れている事を祈っていた。




――しかし、彼女達の希望は最悪な形で裏切られる。





※今回の過去編は残酷な描写が多く含まれます。ですが、これからの物語には欠かせない話なのでご了承ください。

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