特別編第79話 《決着の時》
――リーナの頑張りとナイの渾身の一撃によって遂に土鯨の全身を覆い込む外殻は崩壊し、この際に外殻に突き刺さっていた全ての土鯨砲から発射された銛も抜けてしまう。
外殻が破壊された直後に土鯨の本体が姿を晒すが、その姿を見た者は唖然とした。土鯨の中身は白色に光り輝く鯨だった。
ウオオオオオオッ――!!
全身が白く輝く土鯨は咆哮を放ち、全身を拘束していた銛が抜けた事で自由を得た土鯨は動き出す。土鯨は地中に逃げるのを止め、空高く浮き上がった。まるで鯨というよりはシャチやイルカのように浮き上がる姿に誰もが眼を奪われる。
「と、跳んだ!?」
「あの巨体で……」
「おい、まずいぞ!!あいつが向かう先には軍船が……!!」
跳ね上がった土鯨の姿を見て固まっていた者達が土鯨の進行方向の先に巨人国軍の軍船が待機している事を知り、このままでは土鯨と軍船が衝突してしまう。しかも進行方向の先に存在する軍船にはテランとバッシュが乗っている船だと判明し、慌てて他の者たちは後を追う。
「やばい、大将軍と王子が乗っている船だぞ!!」
「止めないと!!」
「と、止めろと言われても……どうやって!?」
地上の者達は慌てて土鯨を止めようと追いかけるが、砂船でも逃げ切れない程の移動速度を誇る土鯨に追いつけるはずもなく、土鯨はテランとバッシュが乗り込んだ軍船に迫る。
このままでは軍船に土鯨が衝突して乗組員が全滅してしまい、それを止めるためにリンやミイナが各々の魔剣を仕掛けようとしたが、その前に土鯨の上空に大きな影が差した。
『私達の事を忘れてませんか!?』
『こっちじゃ、化物がっ!!』
上空から大声量でイリアとハマーンの声が響き渡り、その声を聞いて驚いた誰もが空を見上げると、そこには飛行船スカイシャーク号の姿があった。最初の土鯨に攻撃された時に退避したと思われた飛行船だったが、また戻ってきて土鯨に向けて魔導大砲の砲口を構える。
当初の作戦では土鯨の外殻を破壊するために魔導大砲も使用される予定だったが、もう既に土鯨の外殻は存在せず、今ならば直接に魔導大砲で攻撃を与える事ができた。イリアは照準を定めると、改良した魔導大砲を発射させる。
『魔導大砲、
『放てっ!!』
スカイシャーク号の口元の部分から砲台が出現すると、咆哮から赤色の光が発生した。まるで火竜の吐息の如く凄まじい「炎弾」が発射された。土鯨に向けて放たれた炎弾は見事に土鯨の正面に衝突すると、凄まじい爆発を引き起こして土鯨の肉体は爆炎に飲み込まれる。
オァアアアアアアッ――!?
砂漠中に土鯨の悲鳴が響き渡り、その声を聞いたナイ達はあまりの声量に耳を塞ぐ。やがて爆炎が消えると土鯨は全身から煙を吹き出し、動きを停止していた。
魔導大砲の一撃で事切れたのかと思われたが、しばらくの間は硬直していた土鯨だったが再び目を見開くと、再び軍船に向けて移動を開始する。
「ウオオオオッ……!!」
「なっ!?まだ動けるのか!?」
「化物め……不死身か!?」
再び移動を再開した土鯨に対してリンとガオウは驚愕し、慌てて後を追いかける。先の魔導大砲の一撃で土鯨の移動速度は落ちており、これならば軍船に辿り着くまでに追いつける。
『おい、まだ生きてるぞ!!早く次のを撃たんか!?』
『無茶言わないでください、魔導大砲は1発撃ったらしばらくは冷まさないと撃てないんです!!』
飛行船から慌てた様子のハマーンとイリアの声が響き渡り、二人のやり取りを聞いていた者達はもう飛行船からの援護は期待できない事を知って土鯨を止めに向かう。
「船を守れ!!」
『うおおおおおっ!!』
「こちらも負けていられませんわ!!バッシュ王子を救いますわよ!!」
『おおおおおっ!!』
瀕死の土鯨に向けて討伐隊と巨人国の兵士が迫り、それぞれの主君を守るために彼等は全力で戦う。しかし、死にかけの獣ほど厄介な生物は存在せず、土鯨は最後の力を振り絞って身体を跳ね上げた。
「オァアアアアッ!!」
「なっ!?」
「ま、また跳びやがった!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
土鯨は跳び上がる姿を見て地上の者達は見上げる事しかできず、空高く舞い上がった土鯨は自分に攻撃を仕掛けた飛行船に突っ込もうとした。
せめて死ぬぐらいならば飛行船を道連れにしようとした行動だろうが、この時に土鯨にとって不運なのは土鯨の尻尾にしがみついた人間が存在した。それは誰よりも早くに追いついたナイであり、彼は空中にて土鯨の尻尾を切り裂く。
「うおおおおっ!!」
「オアッ……!?」
岩砕剣を振りかざしたナイは刀身に地属性の魔力を送り込み、限界以上に重量を増加させる。その結果、尻尾に予想外の重みが加わった事で土鯨は飛行船には届かず、地上へと落下していく。
「これで……終われぇええええっ!!」
「オアアアアアアッ!?」
土鯨が地上に墜落した途端に大量の砂煙が舞い上がり、瀕死の状態だった土鯨は強烈な衝撃を受けて今度こそ意識が飛んだ――
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