特別編第78話 《自分にできる事を》

リーナの蒼月は所有者から水属性の魔力を吸い上げ、氷を生み出す事ができる。切り付けた相手を氷結化させるだけではなく、氷その物を生み出して刃に纏う事もできた。


ナイの旋斧も魔石から水属性の魔力を吸収すれば切り付けた相手を凍らせる程度の事はできる。しかし、リーナのように氷まで生み出す事はできない。それに氷結化させる速度も蒼月の方が上で有るため、そういう意味ではリーナの蒼月の方がナイの旋斧よりも優れている。


そして土鯨との戦闘で最も役立つのが蒼月の力であり、リーナはナイの役に立つために今まで以上に蒼月の力を引き出す。アチイ砂漠に暮らす人々を救うため、巨人国のために戦う理由もあるが、一番に彼女が戦う理由はナイの役に立つためである。



(お願い蒼月!!僕の想いに応えて!!)



蒼月を信じてリーナは土鯨の背中に対して刃を繰り出すと、この時に蒼月の刃に纏う氷の刃物がより鋭利に尖り、魔法金属級の硬度を誇る土鯨の外殻に突き刺さる。突き刺した箇所から水属性の魔力が流れ込まれ、土鯨の背中が徐々に氷結化していく。



「オアアアアッ!?」

「くぅっ……まだまだっ!!」



激しく土鯨は暴れようとするが、リーナは気合を込めて蒼月を握りしめて氷結化を続行する。遂には土鯨の動作が鈍り始め、背中の広範囲が凍り付いてしまう。


体内の魔力を殆ど使いつくしたリーナは蒼月を引き抜くと、彼女は虚ろな瞳で力が抜けていく。やがて立っている事も出来ずに倒れ込み、土鯨の背中から転がり落ちようとした時、彼女の身体をナイが受け止める。



「リーナ!!」

「あ、ナイ君……えへへ、頑張ったよ」

「ああ……よく頑張ったね」



ナイが自分を抱き留めてくれた事にリーナは嬉しく思い、そんな彼女をナイは地上に着地すると他の者に託す。



「ミイナ、リーナを頼んだよ」

「分かった」

「ナイ君……あともう少しだよ、頑張ってね」

「ああ、分かってる……ドリスさん、ヒイロ!!」

「は、はい!?」

「どうかしましたか!?」



リーナが作り出した好機を逃さず、ナイは土鯨の外殻を完全に破壊するためにドリスとヒイロを呼ぶ。いきなり呼ばれた二人は戸惑うが、そんな二人に対してナイは旋斧を剥ける。



「二人とも俺の旋斧に火属性の魔法剣を!!」

「えっ!?それはどういう意味ですか!?」

「まさか……」

「俺を信じて……二人の力も必要なんです」



ドリスとヒイロはナイの言葉に驚くが、すぐに彼の意図を察したのか二人は左右に分かれてナイが繰り出した旋斧に武器を構える。このままナイが土鯨の背中に移動して火属性の魔法剣を発動させて攻撃したとしても威力不足であり、それならば火力を限界まで上昇させる必要があった。


旋斧は「」であり、あらゆる魔力を吸収する事ができる。しかし、聖属性の魔力以外を吸収し過ぎると外部に発散しない限りは魔力がいつまでも刀身に蓄積される。それを利用してナイはドリスとヒイロの魔法剣の力を吸収し、火属性の魔法剣の力を上げようと考えた。



「爆槍!!」

「烈火斬!!」

「くぅっ……!!」



二人の魔剣と魔槍が刃に的中するとナイは力を込めて踏ん張り、やがて二人の武器に纏っていた火属性の魔力が旋斧に吸収される。かつて火竜を倒した時のように旋斧の刃が紅色に変化すると、ナイはこれならば土鯨に最大の一撃を繰り出せると確信した。



「リンさん、風の斬撃で僕を上に飛ばせますか!?」

「何!?」

「ミイナも手伝って!!俺を上まで投げ飛ばして!!」

「……分かった」



リンはナイの言葉に驚愕するが、ミイナはすぐに抱えていたリーナをヒイロに預けると、後ろからナイに抱きついて投げる準備を行う。リンの方は戸惑いの表情を浮かべるが、ナイの覚悟を感じ取って彼女も魔剣を抜く。



「ミイナ、投げて!!」

「てりゃあっ」

「上手く風に乗れ!!はああっ!!」



気の抜ける掛け声ではあるがミイナはナイを上空へ投げ飛ばすと、リンは威力を調整した風の斬撃を繰り出してナイの身体を風の力で浮上させる。


ミイナの怪力とリンの風の力でナイは土鯨の上空へと移動すると、旋斧を構えた状態で落下する。この時にナイは火属性の魔石から全ての魔力を引き出し、旋斧に送り込んで最大の一撃を喰らわせようとした。



(あの時のように……!!)



イチノに出現したゴブリンキングとの戦闘を思い出したナイは旋斧の力を信じて攻撃を繰り出すと、この時に旋斧の刀身から炎が放出され、まるで「火竜」のような姿へと変貌する。かつてゴブリンキングを倒した時と同様に炎の竜を纏ったナイは土鯨の背中に全身全霊の一撃を繰り出す。



「終わりだぁああああっ!!」

「ッ―――――!?」



土鯨の背中に強烈な一撃が繰り出され、火柱が誕生する程の一撃だった。そしてこの一撃で土鯨の全身の外殻に罅割れが広がり、遂に外殻を完全破壊する事に成功した。

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