特別編第73話 《賞金首スナネコ》

「ひいっ!?」

「キャインッ!?」

「逃げようとするんじゃないぞ、今月の寝床代を払って貰おうか」



逃げようとしたネココの足元の地面に短剣が突き刺さり、それを見たネココとワン子は怯えた表情を浮かべる。そんな彼女達に対してスナネコは手元を引き寄せると、何故か勝手に短剣が地面から引き抜かれて彼女の手元に戻った。


スナネコの行為にネココは腰を抜かしてしまい、今のはただの脅しではなく、本気でスナネコはネココが逃げれば殺すつもりだった。彼女はゆっくりと近づくと、ネココが隠し持っている財布を渡すように促す。



「さあ、今月の寝床代を渡して貰おうか」

「あ、あの……ぜ、全部渡すのだけは」

「私に口答えするつもりかい?」

「ク、クゥ〜ンッ……」



スナネコのあまりの迫力にワン子も怯えてしまい、ネココは悔し気に隠していた財布を差し出す。差し出された財布をスナネコは奪い取ると、中身を確認して満足そうな表情を浮かべる。



「こいつは凄いね、どこの貴族から盗んできたんだい?まあ、これだけあれば今月の寝床代は十分だね」

「あ、あの……せめて一枚だけでも返しては……」

「あん?あんた、誰のお陰で生きていられると思うんだい?」

「ひっ!?」

「ウォンッ!!」



ネココの言葉にスナネコは眉をしかめ、彼女は短剣を逆手に構えるとネココは頭を抱えて怯える。そんなネココを見てワン子は彼女を庇う。


飼い犬に庇ってもらうネココを見てスナネコは鼻を鳴らし、彼女はネココから奪った財布を手にして立ち去ろうとした。しかし、路地裏の出入口から少年の声が響く。



「ちょっといいですか?」

「あん?」

「あ、あんたは……!?」

「ウォンッ!?」



の技能でワン子を追いかけてきたナイが遂にネココを発見すると、彼は自分の財布を持っているスナネコと、怯えた様子で座り込むネココを見て状況を把握する。



「その財布、そこにいる子供が僕から盗んだ財布です。返してください」

「何だい、あんたは……死にたいのかい?」

「や、止めろ!!殺されちゃうぞ!?この人はあの砂猫団の……」

「ウォンッ!!」



財布を返して貰おうとナイは路地裏に入り込むと、そんな彼に対してスナネコは面倒そうに短剣に手を伸ばす。慌ててネココが止めようとしたが既に時は遅く、スナネコはナイの顔面に目掛けて短剣を投げ放つ。



「死になっ!!」

「危ないっ!?」



短剣がナイの顔面に向けて迫り、その光景を見たネココは咄嗟に彼を助けようとしたが、当のナイ本人は投げつけられた短剣を何事も無いように掴み取る。



「おっと」

「はっ!?」

「ええっ!?」

「ウォンッ!?」



顔面に目掛けて飛んできた短剣をナイはあっさりと掴み取ると、その光景を見たスナネコとネココは驚愕の表情を浮かべる。ワン子でさえも何が起きたのか分からずにスナネコとナイを交互に見渡す。


短剣を掴み取ったナイはじっくりと短剣を眺めると、よく研ぎ澄まされた鋼鉄製の刃であり、こんな物を顔面に受ければ間違いなく死んでしまう。つまり、スナネコは本気で自分を殺そうとした事を知り、目つきを鋭くさせる。



「殺そうとしましたよね、今の……」

「くっ!?このっ……」



スナネコは慌てて手元を手繰り寄せる動作を行い、何の真似かとナイは思ったがこの時に彼が握りしめている短剣が彼女の元に引き寄せられる。それを見たナイは彼女が手に取りつけている指輪と短剣の柄の部分に細い糸が繋がっている事に気付き、糸を手繰り寄せて短剣を回収した事を知る。



(暗器の類かな?という事はこの人は暗殺者か何かか……)



相手の武器を見てナイはスナネコの正体が暗殺者か何かだと判断し、命を狙ってきた以上は容赦はしない。しかし、狭い路地裏では大剣の類は扱いにくく、彼は腰に差している刺剣を引き抜く。


ナイも武器を手にした事にスナネコは警戒心を露にすると、彼女は四つの短剣を同時に引き抜いて片手で二本ずつ短剣を掴むと、ナイに目掛けて放つ。



「死ねっ!!」

「頭を下げて!!」

「うわっ!?」

「キャインッ!?」



同時に四つの短剣を投げてきたスナネコに対してナイはネココとワン子に頭を下げるように指示すると、二人は慌てて頭を抱えて地面に伏せる。狭い路地裏では投げつけられた短剣を躱すのは困難であり、仕方なくナイは背中の反魔の盾を取り出して弾き返す。



「ふんっ!!」

「そんな盾……うぎゃあああっ!?」



反魔の盾で短剣が弾かれた瞬間、衝撃波が発生して短剣はあらぬ方向へ飛び去り、その影響で短剣に糸を繋げていた指輪のせいでスナネコの指があらぬ方向へ曲がってしまう。


路地裏にスナネコの悲鳴が響き渡り、その隙を逃さずにナイはスナネコに近付くと、掌底を腹部に叩き込む。



「はあっ!!」

「ぐへぇっ!?」

「す、すげぇっ!?」

「ウォンッ!?」



武道の達人の如く、ナイの掌底の一撃を受けたスナネコは吹き飛んでしまい、その光景を見たネココとワン子は驚愕の声を上げた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る