特別編第73話 《ネココとワン子》
――スナネコを倒した後、ナイは財布を回収すると気絶したスナネコを連れて兵士の駐屯所に赴く。この時にしっかりとネココとワン子も逃がさずに連れていき、兵士に事情を話すとスナネコは彼等でも手を焼いている悪党だと判明した。
「あのスナネコを捕まえるなんて……本当に助かりました。奴は賞金首なのですが、今まで誰も捕まえる事ができずに困ってたんですよ」
「あいつはここいらに暮らしている浮浪者から金を巻き上げ、特にすばしっこい子供の浮浪者にはスリをさせて観光客から金を盗ませる奴なんですよ」
「という事はあの女の子も……」
「ええ、スナネコにスリをさせられていたんでしょうね」
ナイは女兵士から事情聴取を受けているネココに視線を向け、彼女は説教を受けて涙目になっていた。
「君のような小さい子がこんな事をしたら駄目よ!!死んじゃったお父さんとお母さんが悲しむわよ」
「ううっ……ごめんなさい」
「ウォンッ……」
涙を流すネココを見てワン子は彼女を慰めようと顔を舐めやり、その態度を見て女兵士はもう十分に反省したかと判断する。
「隊長、この子どうしますか?お父さんもお母さんもいないようですが……」
「子供を放っておくわけにはいかん、しばらくの間はうちで保護しよう」
「あの……ちょっとその子と話していいですか?」
ナイは兵士の許可を取ってネココの元へ向かうと、彼女はナイを見て怯えた表情を浮かべるが、ナイはもうネココを責めるつもりはない。
ネココに財布を盗まれたのは事実だが、彼女も生きるためには仕方なく他の人間から財布を奪ってきた事は知っているため、もうこれ以上に責める気にはなれなかった。しかし、ナイが気になったのはネココの態度だった。
「君、嘘泣きしてるでしょ」
「……へへっ、バレてたか」
「ウォンッ!?」
他の兵士に気付かれないようにナイは小声で話しかけると、ネココは可愛らしく舌を出して嘘泣きである事を明かす。その彼女の態度にワン子さえも驚くが、ナイは昔にゴマンが悪戯をした時によく噓泣きをしていたので彼女の嘘泣きも見抜く事ができた。
「これから君は兵士に保護されるみたいだけど、それでいいの?」
「良くないよ、あたしは自由に生きたいんだ。こんな危険な街なんかおさらばして他の国に暮らしたい」
「どうしてこの街が嫌なの?」
「……さっきの奴だけじゃないんだよ、あたし達から金をせしめるのは」
ネココによるとスナネコ以外にも身寄りのない人間から金を奪う悪党がいるらしく、この街に暮らす限りは彼女は平穏な時を過ごせない。だからこそネココは金を集めて砂船に乗り、他の国へ行きたいと考えていた。
「兵士に保護されてもどうせいつまでも面倒を見てくれないし、また外に放り出されるだけだ。それなら逃げ出した方がまだマシだよ」
「つまり、ここにいても君は逃げるわけね」
「そうだよ、それ以外にあたしが生きる方法なんてないんだからさ……」
不貞腐れるようにネココは椅子の上でふんぞり返ると、そんな彼女を見てナイは自分の財布から金貨を何枚か取り出し、こっそりとネココに手渡す
「これだけあれば十分でしょ?」
「え、な、なんで……」
「そのお金で今度こそ外に出て、真っ当に生きるんだよ」
ナイはお金を渡すとネココは驚いた表情を浮かべ、どうして自分のためにここまでしてくれるのかと思った。確かにナイはネココとは今日出会ったばかりで助ける義理はないのだが、困っている子供を放っておける性格ではない。
別れ際にネココに外に出るために必要なお金を渡すと、ナイはワン子の頭を撫でてしっかりと主人を守るように忠告した。
「ご主人様の事をちゃんと守るんだぞ」
「クゥ〜ンッ……」
ワン子はナイの言葉を理解しているのかはっきりと頷き、後の事は兵士達に任せてナイは駐屯所を後にした。
「国を出る、か……なら、こっちも頑張らないとな」
ネココが街の外に出るためには土鯨を何とかしなければならず、現在の街は土鯨が現れたせいで閉鎖中だった。だから彼女が国を出ていくために土鯨を始末して閉鎖を解かなければならず、ナイは戦う理由がまた一つ増えてしまった――
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