特別編第68話 《漢の勝負》

「ううっ……があああっ!!」

「っ!?」

「う、嘘だろ!?」

「あの状態から……まだ戦う気か!?」



頭を掴まれて何度も石畳に叩き付けられていたナイだったが、彼は両腕に力を込めて石畳を抑えると、顔面を叩き付けられるのを阻止する。


この時のナイは無意識に強化術を発動させ、ライトンを上回る膂力を手に入れた。それでも大量の鼻血を吹き出しており、流石にここまで損傷を受け過ぎた。



「だああっ!!」

「うおおっ!?」



自分の頭を掴むライトンの腕を振り払うと、ナイは彼の右足に飛びついて力ずくで持ち上げると、今度はライトンを地面に倒れさせる。その状態からナイはライトンの両足を掴み、勢いよく彼の身体を引っ張り出す。



「あぁああああっ!!」

「おおおおおっ!?」



プロレスのジャイアントスイングの如く、ナイはライトンの巨体を振り回すと勢いよく投げ飛ばす。その結果、試合場から放り出されたライトンは派手に軍船のマストに叩き付けられ、あまりの衝撃にマストが折れてしまう。



「うわぁっ!?」

「マ、マストが……」

「やばり、逃げろ!!」



マストが折れて倒れようとした瞬間、甲板に立っていた者達は慌てて避難を行う。しかし、テランが誰よりも早く動いて折れ曲がったマストを受け止める。



「ぬんっ!!」

「だ、大将軍!?」

「す、すげぇっ!?」

「嘘でしょうっ!?」



折れたマストをたった一人で持ち上げたテランの姿に巨人族の兵士もドリスも驚愕の声を上げ、彼はマストをゆっくりと下ろす。その一方で試合場のナイとマストに叩き付けられたライトンは立ち上がろうとしていた。


お互いに肉体の限界は迎えているが、どちらも戦意は衰えてはおらず、ゆっくりとお互いに歩み寄る。もう体力も残り少ない中、二人は気力を振り絞って拳を繰り出す。



「うおおおっ!!」

「あぁああっ!!」



ライトンはナイに目掛けて拳を振り下ろし、体格差もあるために彼は上から拳を叩き込むように殴るしかない。その一方でナイの方はライトンに拳を当てるには接近するしかなく、彼は身体を伏せてライトンの拳を回避する。



「だぁあああっ!!」

「ぐふぅっ!?」



頭を下げてライトンの拳を回避したナイは、カエルパンチの要領で勢いよく飛び上がってライトンの顎に右拳を叩き込む。顎を撃ち抜かれたライトンは白目を剥くが、それにとどまらずにナイはライトンの首に足元を絡ませて床に叩き込む。



「あぁあああああっ!!」

「ぶふぅっ――!?」



プロレスのフランケンシュタイナーの要領でナイは全体重を乗せてライトンの頭部を床に叩き付けると、今度は流石に意識が途切れたのか、そのままライトンは動かなくなった。


攻撃を仕掛けたナイの方も限界を迎え、そのまま彼は床に倒れ込んで意識を失う。その光景を見ていた者達はあまりの衝撃的な終わりに何も言えず、テランでさえも言葉を発するのに時間が掛かった。



「……見事な勝負だったぞ、二人とも」



テランは倒れた二人の元に赴き、武器も何も使わずに正々堂々と戦い抜いた二人を褒め称えた――






――その日の晩、軍船はナイ達の飛行船の元に移動すると、砂漠にて大勢の巨人族の兵士と王国騎士達が宴を行う。



「はっはっはっ!!お主等、意外と気前が良いな!!まさかこんな上等な酒を用意してくれるとは!!」

「いやいや、まさかあの有名なハマーン技師とこうして会えるなんて夢にも思いませんでしたぞ!!」

「ささ、どうぞ他の方も飲んで下さい!!」

「お、おおっ……悪いな」



巨人族の兵士達は盛大に宴を開いて討伐隊を歓迎し、あまりの歓待ぶりにハマーンは上機嫌だったが他の者たちは呆然とする。聞いていた話では巨人国軍は自分達を受け入れる事を拒否すると聞いていたが、何故か話に反して彼等は盛大に討伐隊を出迎えてくれた。


テランは討伐隊の代表であるバッシュと共に酒を酌み交わし、二人はお互いの杯に酒がなくなると新しい酒を注ぐ。その光景を見て他の者たちは二人に何があったのかと気にかかるが、とても話を挟めるような雰囲気ではない。



「……見事な決闘だったな」

「ああ……久しぶりに素晴らしい戦いを見れた気がした」



バッシュの言葉にテランは頷き、彼等はナイとライトンの試合ぶりを見てお互いの立場を忘れて見入ってしまった。あの試合を見ていたら自分達の国の立場など気にしていられず、試合が終わった途端に両国の人間のわだかまりがなくなっていた。


ドリスもリンも共に試合を見た巨人族の兵士達と談笑を行い、いつの間にか両国のわだかまりがなくなっていた。討伐隊の者達も想定外に好意的に接してくれる巨人族の兵士に戸惑いながらも受け入れている。


ナイとライトンの素晴らしい決闘を見てバッシュもテランも自分達の立場を気にする事が馬鹿らしく思い、ここから先は共に力を合わせて戦う事を約束した。

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