特別編第67話 《まだ終わっていない》
「ナイ、無事か!?」
「す、凄い衝撃波でしたけど……平気ですの?」
「え、ええ……どうにか」
「ふっ……やっとその盾の凄さを思い出したようだな」
反魔の盾でどうにかライトンの攻撃を跳ね返す事に成功したナイにバッシュ達は安心するが、実際の所はナイも危なかった。いくら反魔の盾が外部からの衝撃を跳ね返すと言っても、攻撃を受ける時はナイ自身も盾を支えるために耐えなければならない。
外部からの衝撃を受け切った上で反魔の盾は効果を発揮するため、ライトンの攻撃を真正面から受ける必要がある。そのせいでナイは両腕と両足が痺れて碌に動けず、これ以上の戦闘の続行は難しい。
(どうにか勝てたな……ありがとう、ゴマン)
ナイはゴマンから託された大切な形見の盾を戻そうとした時、ここで彼の前に影が差す。不思議に思ったナイは顔を見上げると、そこには白目を剥いた状態のライトンが立っていた。
「えっ……!?」
「ふうっ、ふうっ……」
「ば、馬鹿なっ!?あの状態で立ち上がった!?」
「そんなっ!?」
「ナイ、油断するな!!」
何時の間にか場外から試合場に戻ってきたライトンは半ば意識を失った状態でありながらナイの元に迫り、その彼の思いがけない行動はバッシュ達だけではなく、他の巨人族の兵士も動揺を隠せない。
先の攻撃でライトンは間違いなく倒れたと思われていたが、彼は半分意識を失いながらもナイを倒すために試合場へと戻ってきた。そして両腕と両足が痺れて碌に動けないナイに目掛けて拳を振り下ろす。
「がああっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「ナイさん!?」
ライトンに殴り飛ばされたナイは反魔の盾を場外に落としてしまい、二つの大剣も手放したまま試合場の隅に追い込まれる。殴りつけられた際に口の中を切ってしまい、口元から血を流してしまう。
「いつぅっ……!?」
「倒す、敵を……倒すっ!!」
「お、おい!!ライトン、もう止めろ!!」
「駄目だ、意識が飛んでやがる!!」
「テラン大将軍!!ライトンを止めてください!!」
慌てて巨人族の兵士が未だに暴走中のライトンを止めようとするが、テランはライトンの姿を見て半ば意識を失って尚も戦おうとする彼を止める事ができなかった。
「いや……試合はまだ終わっていない。ライトンはまだ気絶も降参もしていない」
「そんなっ!?」
「ここで止めないと、本気でライトンはその人間を殺しますよ!!」
「大将軍が止めないのなら俺達が……」
「決闘を邪魔する事は許さん!!」
流石に見ていられずに巨人族の兵士達はライトンを止めようとするが、それに対してテランが彼等に立ち塞がる。そのテランの気迫に彼等は気圧されてしまい、その一方でナイは立ち上がろうとした所をライトンに蹴り飛ばされてしまう。
「がああっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「ナイさん!!」
「くっ……王子、これ以上は危険です!!」
「……ナイ」
ドリスとリンはナイを救うための許可をバッシュに求めるが、彼はナイの姿を見て止めるべきか悩む。ライトンがまだ決闘を諦めていないようにナイもまた諦めていないような気がした。
蹴り飛ばされた際にナイは場外に落ちてしまうが、そんな彼にライトンは追撃を加えようと試合場から降りてきた。しかし、その瞬間を逃さずにナイは起き上がると試合場に降りようとしたライトンの足を掴んで引っ張り上げる。
「このぉっ!!」
「うがぁっ!?」
ライトンの両足を掴んだナイは彼の身体を引き寄せると、体勢を崩したライトンは試合場の石畳に頭をぶつけてしまう。その隙にナイは試合場へと戻ると、剛力の技能を発揮してライトンを馬乗りになって殴りつける。
「このっ、このっ!!」
「ぐふぅっ!?がはぁっ!?」
「ば、馬鹿な……あのライトンが人間なんかに!?」
「く、くそっ……おい、負けるなライトン!!」
「何してんだ、早く起きろ!!」
先ほどまではライトンを止めようとした者達も、ナイに殴られる彼の姿を見ていられずに声援を送る。その一方でドリスとリンもナイに声援を送った。
「ナイ、負けるな!!」
「その調子ですわ!!一気に勝負を決めましょう!!」
「ナイ!!」
馬乗りになったナイはライトンに対して無我夢中に殴りつけるが、体格差はライトンの方が有利のため、殴られ過ぎたせいで逆に意識が覚醒したのかライトンは血を吐きながらも無理やりに起き上がる。
「がああっ!!」
「うわぁっ!?」
起き上がった際にライトンはナイの頭を掴むと、勢いよく石畳に叩き付ける。その姿を見て周囲の人間は絶句するが、さらにライトンは何度もナイの頭を持ち上げて石畳に叩き付ける。
「うがぁあああっ!!」
「ぐふっ……がはぁっ!?」
「バッシュ王子、本当にナイが死んでしまいます!!」
「早く助けないと……」
「いや、まだだっ!!」
何度も石畳に顔面を叩き付けられるナイを見てドリスもリンも見ていられなかったが、バッシュはナイが反撃する事を信じて彼を止めない。
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