特別編第66話 《心強い味方》

「はあっ、はあっ……」

「ぐぅっ……」



まだ試合は始まったばかりだがナイとライトンは汗を流し、自分とほぼ互角の膂力を持つ相手と戦うのはライトンは初めてだった。ナイは自分よりも腕力が強い人間と戦った事は何度もあるが、ライトンは子供の頃から大人が相手であろうと腕力で負けた事はない。


ライトンは巨人族の中でも腕力に優れ、彼は若いながらに次の大将軍候補として認知されているのはこの腕力のお陰である。巨人族の間では力が強い者が優遇される風習があり、だからこそ20代前半でありながらライトンは巨人族の中でも高い地位に就いている。


しかし、その彼が自慢とする腕力が人間の少年と互角という事実にライトンは許せず、彼は自分が非力な人間如きに負けるはずがないと彼は怒りを露わにする。



「ふざけるなぁっ!!」

「うわっ!?」

「いかん、ライトン!!落ち着け!!」

暴走する気か!?」



ライトンはナイに対して両手の錘を掲げて接近すると、鬼気迫る表情で向かってきたライトンにナイは驚いて「跳躍」の技能を発動させて別の場所へ移動する。


直後にライトンが振り下ろした錘が試合場の石畳に叩き付けられ、その衝撃で石畳が罅割れて軍船に振動が走る。先ほどよりもライトンの攻撃力が増しており、まともに受ければナイの身が危ない。



「がああああっ!!」

「うわわっ!?」

「まずい、止めるんだ!!」

「頭に血が上ってやがる!!」

「テラン大将軍!!このままでは殺してしまいますよ!?」

「…………」



まるで獣のようにライトンはめちゃくちゃに錘を振り回し、その姿を見た巨人族の兵士は慌ててテランに試合を中断するように宣言する。このままではテランがナイを殺しかねず、そんな事になれば大変な事態に陥る。


しかし、テランはライトンの暴走する姿を見ても試合を止める事はせず、巨人族の間では一度取り決めたは外部の人間が邪魔する事はできない。今回の場合は表向きは試合として通しているが、実質的には王国と巨人国の代表同士の決闘に等しい。



「王子!!このままではナイが!!」

「止めるべきでは!?」

「いや……ここで俺達が止める事はできない」



観戦していたドリスとリンもライトンが普通の状態ではない事に気付き、バッシュに試合を止めるべきだと進言するが彼は了承しない。確かに今のライトンが普通の状態とは思えないが、だからといってここで試合を無理に中断すれば今回の目的が果たされない。


この試合はナイが勝たなければ巨人国軍は王国軍の加勢を認めず、ここまでの苦労が水の泡となる。それにバッシュは信じていた、彼ならばこの程度の苦境を乗り越える事ができる事を。



「うがぁあああっ!!」

「くっ……」



錘を振りかざして近付いてくるライトンに対して、ナイは両手の武器で対応しようとした時、ここでバッシュが声をかけた。



「ナイ!!思い出せ、お前の武器はその二つの大剣だけじゃない!!」

「っ!?」



バッシュの声を聞いたナイは彼に視線を向けると、彼は「防魔の盾」を見せつけた。その光景を見てナイはある事を思い出し、自分には心強い味方がいる事を今の今まで忘れていた。


即座にナイは背中に抱えていた「反魔の盾」を取り出し、二つの大剣を手放して盾を構える。反魔の盾は普段から大剣と同じように背中に装備していた事を忘れていたナイだったが、この状況下で彼はライトンの攻撃を受けるために取り出す。



「やああっ!!」

「があああっ!!」



強烈な衝撃音が響き渡り、ライトンが振り下ろした錘が反魔の盾に衝突した。その瞬間、ナイの足元の地面に亀裂が走るが、同時に反魔の盾から強烈な衝撃波が発生してライトンを吹き飛ばす。



「がはぁあああっ!?」

「くぅっ……!?」

「何ぃっ!?」



ライトンが吹き飛ばされる光景を見てテランは驚愕の声を上げ、自ら振り下ろした錘の攻撃が跳ね返される形となったライトンは場外まで吹き飛び、他の巨人族の兵士を巻き込んで甲板に倒れ込む。



「うわぁっ!?」

「あぐぅっ!?」

「がはぁっ……!?」



数名の兵士を巻き込んで甲板に倒れ込んだライトンを見て他の者たちは唖然とするが、その一方で反魔の盾を抱えたナイの方は膝を着き、両腕と両足の痺れに涙を流す。



「いったぁっ……し、死ぬかと思った」

「まさか、その盾はあの噂の……!?」



テランはナイの姿を見て彼が所有する「反魔の盾」に気付き、かなり前に王国が反魔の盾の所有権をある少年に委ねたという話を思い出す。


反魔の盾はあらゆる攻撃を跳ね返すと言われているが、あくまでも噂だけしか聞いた事がなく、まさかライトン程の猛者の攻撃を跳ね返す防具があるなどテランは夢にも思わなかった。

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