特別編第65話 《貧弱の英雄VS巨人国の大将軍(候補)》

「あの武器は……」

「錘と呼ばれる武器だ。だが、あれほどの大きさの錘は巨人族にしか扱えないだろうがな」



ライトンが両手に所有する武器は「錘」であり、柄の先端に金属製の球状の錘の取り付けられた武器だった。王国では見かけない武器であり、しかも巨人族の扱う錘は通常の錘よりも大きい。


錘を両手に持ったライトンは素振りを行い、重量がありそうな武器にも関わらずに軽々と振り回す。それを見たナイは緊張感を抱き、その一方で彼も二つの大剣を抜いて軽く素振りを行う。



「ふうっ……せいっ!!はあっ!!」

「ぬうっ……!?」



勝負の前にナイも軽く大剣を振って身体を慣らしておくと、その素振りを見てライトンや他の巨人族は驚愕する。人間の剣士が大剣を扱う事自体が珍しいが、ナイの場合は二つの大剣を使いこなしている。しかも尋常ではない速度で大剣を振り回していた。


彼の素振りを見ただけでライトンは只者ではないと気付き、相手が非力な人間だからと侮っていた自分を戒める。そしてナイとライトンは試合場に移動すると、審判役は大将軍のテランが務める。



「今回の試合はあくまでもお互いの力比べが目的だ。どちらかが倒れるか、相手が降参するまで試合を続けてもらうぞ」

「分かりました」

「望むところです」



ナイはテランの言葉を聞いて頷き、試合内容に関しては王国に存在する闘技場とほぼ規則だった。人前で戦う事はナイも慣れているが、今回の場合は巨人国と王国の誇りが掛かっているので無様に負ける事は王国が巨人国に侮られる事を意味する。


ライトンの方も自分が負ければ王国の力を認めざるを得ず、土鯨の討伐に王国の援軍も受け入れなければならない。そんな事態に陥れば巨人国の恥になるため、彼は何としてもナイに負けられなかった。



(必ず勝つ!!)



気合を込めたライトンはナイを見下ろし、その気迫にナイは気圧されそうになるが、心を落ち着かせて今まで戦った敵を思い出す。



(大丈夫……リョフと比べればこの人は怖くない)



かつて自分が戦った最強の戦士を思い出すだけでナイは心を落ち着かせ、正々堂々とライトンと向かい合う。全く物怖じせずにライトンと向き合うナイの姿に周囲の人間は感心する。



「あのライトンを前にして全く動揺していないとは……」

「あれが王国の武人か……」

「若いとはいえ、大した男だ」



巨人族の兵士でさえもナイの堂々とした態度に感心してしまい、大将軍のテランもナイの態度を見て彼がこの若さで数々の修羅場を潜り抜けてきた事を察する。しかし、それでも彼等はライトンの勝利を確信していた。



「両者、準備はいいな?」

「はい!!」

「何時でも……」



二人の準備が整ったのを確認すると、テランは腕を上げて試合の合図を行う。



「始めっ!!」

「うおおおおっ!!」

「だああっ!!」



テランの腕が下ろされた瞬間にライトンとナイが同時に駆け出し、互いに距離を詰めると利き手の武器を振り下ろす。ライトンは錘を横から振りかざすと、ナイは旋斧を同じように横向きに振り払う。


二人の武器が衝突した瞬間、激しい金属音と軽い衝撃波が試合場に広がり、その光景を目にしていた者達は目を見開く。ライトンとナイはお互いの右腕が痺れてしまい、信じられない表情を浮かべる。



(馬鹿なっ!?この俺の一撃を正面から弾いただとっ!?)

(いったぁっ!?す、凄い力だ……この人、ルナと同じかそれ以上の力を持っている!?)



ライトンは人間であるナイに自分の攻撃を弾かれた事に衝撃を受け、その一方でナイの方も聖女騎士団の中ではテンに上回る腕力を誇るルナと同等か、下手をしたらそれ以上の腕力をライトンが持っている事に気付く。


巨人族は見た目通りの怪力を誇るが、ナイが今までに出会った巨人族の中でこれほどの力を持つ相手はゴウカぐらいだけである。腕力だけならばライトンは巨人国の中でも1、2を誇り、逆に言えばそれだけの力を持つ巨人族にナイは渡り合っていた。



「ぐっ……まだまだ!!」

「くぅっ……このぉっ!!」

『うおおっ!?』



今度は左手の武器をナイとライトンは振りかざすと、再び激しい金属音が鳴り響く。岩砕剣と錘が衝突した瞬間に試合場に振動が走り、やはりどちらも腕が痺れて後退ってしまう。



(馬鹿なっ、そんな馬鹿なっ!!こんな人間の小僧が俺と互角の力だと!?)

(ご、剛力を使っているのに押し返せないなんて……この人、本当に強い!?)



ライトンは自分の攻撃を二度も正面から弾き返したナイに衝撃を受けたが、ナイの方も剛力の技能を使用しても互角が精いっぱいである事に動揺を隠せない。


二人は両腕の痺れが抜けるまでは動けず、しばらくの間はお互いの様子見を行う。そして改めてナイとライトンは距離を開いた。

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