特別編第64話 《両国の代表決闘》

「ちょ、ちょっとバッシュ王子……いきなり何を言い出すんですか!?」

「話は聞いていただろう。巨人国の大将軍テランは「力」を持つ者を尊敬する、つまりはここで我々の国の力を見せつければ奴も認めざるを得ない」

「力を見せつけるって……」

「ナイ、難しく考える必要はない。要するにあのをお前が倒せばいいだけだ」

「ほう……随分と自信があるようだな」



バッシュの掴んだ肩とは反対側の肩にリンは手を回し、彼女はテランの右腕であるライトンをよりにもよって「でくの坊」呼ばわりした。声が聞こえていたのかドゴンは彼女の態度を余裕だと判断し、その一方でライトンの方はこめかみに青筋を浮かべる。



「ライトン、お前は随分と見くびられているようだぞ」

「ふんっ……この程度の事では怒りはしません。しかし、まさか噂の英雄がこんな軟弱そうな子供だったとは……」

「見かけに騙されない方がいいぞ。このナイは間違いなく、我が国で最強の戦士だ」

「ちょっと!?」



勝手に話を勧めようとするバッシュにナイは止めようとするが、そんな彼にリンは耳元で囁きかける。



「いいから話を合わせるんだ……こうなった以上、戦う事は避けられない」

「そ、そんな……」

「もう覚悟を決めるしかない。それに大丈夫だ、私の見立てではあのライトンという男はお前には及ばない」

「ナイ、お前にしかこの役目は任せられない。ここで負ければここまでの苦労が水の泡となる事を忘れるな」



バッシュとリンは何としてもナイを戦わせるつもりらしく、ここまで来たらナイも断る事はできない。しかし、仮にも巨人国の大将軍の右腕を相手にする事にナイは緊張感を抱く。


その一方でテランはナイに視線を向け、一見するだけではたたの普通の人間の少年にしか見えないが、武人としての本能がナイが只者ではないと告げる。



(この少年……只者ではないな)



テランは最初にナイを見た時は何も思わなかったが、よくよく観察すると彼は背中に二つの大剣を背負っていた。これまでにテランが出会った人間の剣士の中で大剣を扱う者は滅多に居らず、しかも2つの大剣を所有する剣士など見た事がない。


ナイが所有する大剣からも独特な雰囲気を感じ取り、ただの武器ではないとテランは見抜く。恐らくは二つとも「魔剣」である事は間違いないが、二つの魔剣を同時に扱う人間などテランが知る中では一人しかいない。



(この少年……外見は全く違うが、王国の王妃と近しい雰囲気を感じる)



テランがまだ大将軍になる前、彼は王国の王妃である「ジャンヌ」と会った事がある。王妃ジャンヌは「氷華」と「炎華」の二つの魔剣を完璧に使いこなした天才剣士であり、彼も尊敬の念を抱いた偉大な武人である。


そのジャンヌとナイは外見は全く違うが似たような雰囲気を纏っており、テランはナイがただの少年ではないと知るとライトンに注意した。



「ライトン、決して気を抜くな。この少年は強いぞ」

「なっ!?テラン様、まさか私がこんな子供に負けるとお思いなのですか!?」

「見た目で人を判断するな……あの子は強い、間違いなくな」



ライトンはテランの言葉を聞いて信じられない表情を浮かべるが、尊敬するテランの忠告となれば聞き入れるしかなく、彼は気を引き締めてナイと向き合う。



「……ここで戦うわけには行かない、甲板に移動するぞ。大将軍も王子もそれでよろしいか?」

「うむ」

「ああ、その方がいいだろう」

「え、ええっ……」



結局はナイの意思を半ば無視して話は勧められ、二人の決闘の場は軍船の甲板で行われる事が決まった――






――甲板に移動すると、既に巨人族の兵士が待ち構えていた。軍船には100名近くの巨人族が乗り合わせているらしく、100人の巨人族に取り囲まれる形でナイとライトンのが執り行われる。


軍船の甲板には既に訓練用の石畳が敷き詰められ、お互いに万全に戦えるように決闘の舞台が用意されていた。そして観戦者の中にはドリスも含まれ、彼女はナイに気付くと慌てた様子で駆けつけてきた。



「ナイさん!!ライトン将軍と決闘なんていったいどうなっていますの?」

「いや、それが……話しの流れというか、何というか」

「ドリス、その辺の事は後で詳しく話そう。それよりもナイを集中させてやれ」

「ふっ……既に相手は準備はできているようだな」



決闘の舞台となる石畳には既にライトンが乗り込み、彼は両腕に思いもよらぬ武器を手にしていた。





※ちょっと短めですが、ここまでにしておきます。

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