特別編第63話 《力を見せろ》

「テラン大将軍、この記録は我が国の迷宮都市……つまりは旧王都にて発見された確かな資料だ。この図鑑に記されている事が事実であれば土鯨は竜種にも匹敵する「災害種」だ」

「災害種、だと」

「災害種の魔物の恐ろしさは我々も良く知っている。だからこそ貴国の軍隊が土鯨に挑むつもりならば、我々も役立てると思って騎士団を率いてきた。何しろ我々は2年前にを討伐しているからな」

「ぬうっ……」



火竜の討伐という話を聞いてテランは眉をしかめ、彼の周りの巨人族の兵士もざわつく。竜種がどれほど危険な存在なのかは彼等も理解しており、如何に世界最強の軍隊と自負する彼等でも土鯨が竜種級の危険性を誇る相手と知れば動揺を隠しきれない。


巨人国になくて王国にある最大の強みは「竜種」を討伐したという実績であり、大きな被害は受けたが王国の軍隊は2頭の火竜の討伐に成功している(実際の所はナイの功績が大きいが)。その一方で巨人国の軍隊は竜種の討伐に今まで成功した事はない。



「我が国は既に2頭の竜種の討伐を果たしている。そして土鯨が竜種級の危険度を誇る相手ならば、我が国の力が必要になると思って陛下は王国騎士団と王子である俺を派遣した……といえば信じてくれるか?」

「つまり、貴国は我々だけでは土鯨は手に余ると言いたいのか?」

「巨人国の軍隊が精強である事は我々もよく知っている。しかし……災害種がどれほど恐ろしい存在なのかは我々も知っている。だからこそ我々はここへ来た、貴国を救うための力になるために」

「…………」



バッシュの言葉にテランは腕を組んで考え込み、土鯨が竜種と同様に災害級の力を誇る存在ならば油断できない相手である。本音を言えば王国から力を借りれるのであれば有難いが、他国の軍勢の力を借りて自国の領地内に現れた魔物を討伐する事は色々と問題がある。


仮に土鯨の討伐のために巨人国と王国が連合軍を組めば、他の国々は巨人国は自国で起きた問題を自力で解決できず、同盟国の王国まで巻き込んだと卑下されるだろう。そんな事態になれば巨人国は他の国々に侮られてしまう。


しかし、ここで王国の戦力を追い返せば今後の巨人国と王国の関係性に罅が入り、第一に土鯨を巨人国の戦力だけで確実に始末できるかは分からない。実際に土鯨の捜索のために巨人国は国内の風属性の魔石を使い切る寸前であり、王国に風属性の魔石の提供を求めたほどである。


もしも王国の戦力を追い返して土鯨の討伐に失敗すればそれこそ大惨事となり、下手をすれば巨人国という国が崩壊する。テランは国の面子を守るべきか、あるいは王国の協力を受け入れるか悩み、ここで彼はある事を思いつく。



「……王子は先ほど「我々の力になりたい」といったな?その言葉に嘘はないと誓えるか?」

「誓おう、嘘だと思うのであれば誓約書を書いても構わない」

「そうか……ならば、そこまで言い張るのであれば貴国の力を実際に見せてほしい」

「やはりそうきたか」



バッシュはテランの言葉を聞いて頷き、彼は最初からこのような展開になる事を予想していた。テランは王国が連れてきた騎士団の戦力を見極め、その上で答えを出す事を告げる。



「先ほど、2頭の火竜を討伐したと言っていたな。つまり、王子が連れてきた騎士団には竜種を討ち取る程の力があるという事で間違いないか」

「その通りだ。我が王国騎士団は一騎当千の強者ばかりだ」

「ほほう、それは楽しみだ……ならばその自慢の騎士団と我々の精鋭部隊と力比べを行おうではないか」

「えっ……」



不穏な気配を感じ取ったナイは声を上げるが、バッシュはテランのその言葉を待っていたとばかりに彼は椅子から立ち上がる。テランは自分の隣に立つ巨人族の男性に視線を向け、バッシュに紹介を行う。



「この男は俺の右腕で名前はライトンという。俺が大将軍の地位を退けば、この男が大将軍の地位に就くだろう」

「ライトンと申します」

「ほう……つまりは巨人国軍の二番手という事か」



ライトンという名前の巨人族は身長はテランよりも頭一つ分だけ小さいが、テランにも負けない程の筋肉質な男性だった。年齢はまだ若く、恐らくは20代前半だと思われた。


20代にも関わらずに大将軍のテランに認められ、次の大将軍として認められる程の実力者である。そんなテランに対してバッシュは自信を持った表情でナイの肩を掴む。



「ならばこちらはこのナイを出そう」

「えっ!?」

「ナイ……その名前、聞いた事があるぞ。まさか、あの「貧弱の英雄」か!?」

「ナイだと!?」

「あ、あれが噂の英雄……本当にまだ子供同然ではないか!?」



ナイの名前を聞いた途端にテランもライトンも目を見開き、他の巨人族の兵士も騒ぎ出す。ナイの名前は既に他国にも知れ渡っており、まさかバッシュが連れてきた少年がナイだと知ってテラン達は動揺を隠せない。

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