特別編第61話 《巨人国の軍船》

「くそっ……俺の持っている方位磁石も壊れている」

「王子のも!?」

「ええっ……じゃあ、どうやって進めばいいんですか?」



何故か王子が所有していた方位磁石も壊れている事が判明し、これでナイ達は砂漠で迷子になってしまった。方向を分からない状態で闇雲に進むのは危険過ぎるが、だからといって大人しくしているわけにもいかない。


風は強くなり始める一方で有り、もう間もなくすれば砂嵐が訪れる。砂嵐に巻き込まれればいくらナイ達でも命はなく、一刻も早く避難する必要があった。



「王子、危険ですが道を引き返しましょう!!」

「だが、元に戻るにしても既に随分と離れている……第一にこの視界の悪い中、戻れる自信はあるのか?」

「それは……」



リンは戻る事を提案したが、既に強風の影響で大量の砂が舞って視界も悪かった。このまま進むのは危険だが、ここへ残っていても生き埋めにされる事に変わりはない。



(いったいどうすればいいんだ……そうだ、高い所に移動して何か見えないかな?)



ナイは砂丘を登って周囲の状況を確認できないかと考え、大量の砂が舞って視界は悪いが、彼には「観察眼」の技能がある。砂嵐の中でもナイの観察眼ならば砂漠にある物を見分ける事はできるはずだった。



「あの、砂丘に移動しましょう!!もしかしたら何か見つかるかもしれません!!」

「……それしか方法はないか」

「分かった、行くぞお前達!!」

『シャアアッ……!!』



リザードマン達はリンの命令を受けて強風の中を進み、どうにか砂丘まで辿り着く。だが、砂丘の方も徐々に強まる風のせいで崩れ始めており、あまり長居はできない。


砂丘の上に移動したナイは周囲の状況を把握して避難できそうな場所を探すが、視線を凝らしてナイは前方の方角を確認すると、巨大な影を発見した。



「え、あれは……!?」

「どうした、何か見えたのか?」

「砂嵐が見えたのか?」

「いいえ、違います!!船です、しかも物凄く大きい船が近付いています!!」

「船だと……!?」



ナイの言葉にバッシュもリンも驚き、二人もナイと同じ方角に視線を凝らす。最初は舞い上がる大量の砂のせいでよく見えなかったが、やがて時間が経過すると砂煙の中から船の影らしき物を視界に捉える。



「やっぱり、こっちに向かっています!!あの砂船に乗せてもらましょう!!」

「待て!!また砂賊の類ではないのか!?」

「いや……大丈夫だ、あの船の旗を見ろ。あれは巨人国の軍船だ」



リンは砂賊ではないかと警戒するが、バッシュは軍船が掲げている旗を確認して巨人国の軍船だと見抜く。巨人国の軍船はナイ達がいる方向へ向けて移動しており、助けてもらうならば今しかない。



「あの船に乗せてもらいましょう!!」

「あ、ああ……だが、どうやって知らせる!?」

「任せて下さい!!」



接近する軍船を見てナイは旋斧を掲げると、この時にナイは旋斧に聖属性の魔力を送り込む。すると旋斧の刃が光り輝き、それを照明代わりに利用して軍船に自分達の位置を知らせる。


魔法剣を利用してナイは合図を軍船に送ると、軍船はナイ達の存在に気付いたのか移動速度を落として徐々に接近してくる。この時にナイ達は気付いたが、軍船の大きさは昨日に砂賊が乗っていた砂船よりも2倍近くの大きさを誇り、ナイ達が乗ってきた飛行船よりも大きさは上回る。



「で、でかい……何という大きさだ!?」

「間違いない、この船の大きさ……巨人族の船だ」

「こっちに近付いてきますね……」



あまりの船の巨大さにナイ達は圧倒されるが、軍船はナイ達の傍で停止して甲板の方から縄梯子が下ろされた――






――奇跡的にも巨人国の軍船に拾い上げられたナイ達は彼等に保護されると、早速ではあるが船内に通されて軍船を動かす人物と対面する。軍船を動かしていたのはこの国の大将軍にして現在はアチイ砂漠に出現した魔物の調査を行う「テラン」だった。


テランは噂通りに巨人族の中でも大柄な体格でバッシュが今まで出会った巨人族の誰よりも背が高く、筋骨隆々の大男だった。噂ではトロールを殴り殺した事があると言われているが、実際に彼の姿を目の当たりにすると確かにこの男ならばそれぐらいの芸当はできるかもしれないと思わされる。



「バッシュ王子……まさかこのような形で再会するとは思いませんでしたな」

「久しぶりだな、テラン大将軍……まずは我々を救助してくれて礼を言う」

「お気になさらずに……ドリス殿に教えてもらった居場所を頼りに我々は貴公らの船に移動する途中だった」

「なるほど……そう言う事だったか」



現在のバッシュはテランと机を挟んで向き合う形だったが、生憎と船内に用意されている机と椅子は巨人族用の物であるため、まるで子供と大人が向かい合って座っているようにしか見えない。一応はバッシュも人間にしては身長は高い方だが、テランと比べると子供と大人並の身長差だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る