特別編第60話 《砂漠の魔物》
「くっ……風が強いな、砂嵐が近付いているのかもしれん」
「王子!!砂嵐に巻き込まれれば無事ではいられません!!ここは急ぎましょう!!」
「す、砂嵐?」
飛行船を離れてから1時間ほど経過すると、風が強くなって大量の砂が舞い始める。砂嵐が近付いていると可能性があるため、巻き込まれる前に移動速度を上げようとした。
しかし、異動の途中でナイは違和感を感じ取り、彼の気配感知と魔力感知が同時に発動する。用心のために周囲を警戒しながら歩いていたナイはすぐに二人に注意する。
「あのっ!!近くに何か隠れています!!」
「隠れている?」
「何かを感じ取ったのか?何処に隠れている?」
ナイの言葉を聞いてバッシュとリンは警戒態勢に入ると、技能を頼りにナイは隠れている生物の位置を特定する。そして進路方向に存在する砂丘に向けて指差す。
「あの砂丘の向かい側……いや、砂丘の中から気配を感じます!!」
「砂丘の中、だと?」
「あの中に隠れているのか……王子、どうしますか?」
砂丘の反対側ではなく、砂丘の内部に生物の気配を感知したナイは二人に警告すると、バッシュは考えた末にリンに命令を下す。
「あの砂丘に攻撃しろ、但し魔力は抑えろ」
「分かりました。では……はあっ!!」
リンは鞘から剣を引き抜くと、風の斬撃を生み出して砂丘に向けて放つ。その結果、砂丘に三日月状の風邪の斬撃が衝突して砂丘は崩れ去る。
砂丘が風の斬撃によって崩れた瞬間、内部に隠れていた生物が姿を現す。その生物は外見は「鮫」と酷似しており、この砂漠で最も有名な「砂鮫」と呼ばれる魔物だと判明した。
「シャオオッ!!」
「うわっ!?な、何だ!?」
「砂鮫か!!」
「ちぃっ!!」
砂丘から姿を現した砂鮫はナイ達の元へ向けて突っ込み、砂中をまるで海中のように泳ぎながら接近する。それを見たリンは砂鮫に目掛けて再び風の斬撃を放つ。
「せいっ!!」
「シャオッ!!」
「何!?」
リンが放った風の斬撃に対して砂鮫は砂中から飛び出すと、空中で攻撃を回避して再び地面の中に潜り込む。そのまま砂鮫はバッシュの元へ接近し、この時に彼が乗っていたリザードマンが怯えた様に暴れ出す。
「シャアアッ!?」
「くっ!?落ち着け、取り乱すな!!」
「シャオオオッ!!」
乗り慣れていないリザードマンが暴れ出した事で慌ててバッシュは落ち着かせようとするが、その間にも砂鮫は彼の元へ迫る。リザードマンの背中の上ではバッシュの防魔の盾も上手く扱えず、このままではリザードマンごと食われてしまう。
バッシュの危険を悟ったナイは即座に自分のリザードマンから降りると、彼の元に目掛けて駆け出す。ナイは砂鮫に目掛けて岩砕剣を引き抜き、砂鮫がバッシュに向けて飛び出した瞬間に岩砕剣を振り下ろす。
「シャオオオオッ!!」
「だあああっ!!」
「ぐぅっ!?」
「なっ!?」
砂中から砂鮫が飛び出した瞬間、ナイは岩砕剣を砂鮫の土手っ腹に叩き込む。獲物に噛みつこうとした途端に予想外に衝撃を受けた砂鮫は派手に吹き飛び、近くの砂丘に突っ込んでしまう。
「ガハァッ!?」
「うわっとと……」
ナイは地面が柔らかい砂だったせいで上手く踏ん張る事ができず、本来ならば砂鮫を切り裂く勢いで叩き付けたにも関わらず、砂鮫はナイの攻撃を受けても絶命は免れた。しかし、彼に恐れを為したのかそのまま砂中に潜り込んで逃げてしまう。
「シャオオッ……!!」
「あ、逃げちゃった……大丈夫ですか、バッシュ王子?」
「あ、ああ……助かったぞ」
「すまない、私が油断したせいだ……まさか、砂鮫があそこまですばしっこいとは」
バッシュはナイに礼を告げ、リンは自分の不甲斐なさに悔しそうな表情を浮かべる。その一方でナイは自分の足元と岩砕剣を見つめ、砂漠での戦闘が思っていた以上にやりにくい事を思い知らされる。
(危なかったな……ちゃんと踏ん張っていないとまともに剣も振れないや)
砂漠での戦闘はナイにとっても初めてであり、足元に注意して戦わないと上手く大剣も振り切る事ができない。砂の地面では彼の力も半減してしまう。
ここから先は砂鮫のような魔物に襲われる事を警戒して進まなければならず、それに砂嵐も近付いているために一刻も早く目的地に向かう必要があった。ナイはリザードマンに再び乗り込むと、リンに目的地までの距離を尋ねる。
「後はどれくらいで辿り着けますか?」
「…………」
「リン、どうした?」
ナイの質問に対してリンは答えず、そんな彼女の反応にバッシュは疑問を抱くと、彼女は言いにくそうな表情を浮かべて二人に振り返る。
「も、申し訳ございません……今の戦闘で方位磁石が壊れた様です。これでは方角が分かりません」
「なんだと!?」
「ええっ!?」
リンが所持していた方位磁石が壊れてしまい、方角が分からなければ地図があっても延々と同じような風景が続く砂漠を進む事ができない。今までは方位磁石を頼りにどうにか進んでいたが、このままでは3人とも砂嵐に巻き込まれて生き埋めになってしまう。
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