特別編第59話 《巨人国の大将軍》
「巨人国の大将軍……どんな人か知っている?」
「巨人族の中でも体格に恵まれ、巨人国では軍神と崇められているそうだ。僕も会った事はないが、噂によるとトロールを一撃で殴り殺せる腕力を誇るらしい」
「あ、あのトロールを!?」
「流石にそれは信じられない……あ、でもナイならできる?」
「いや、無理だよ……多分」
アルトが聞いた噂によれば巨人国の大将軍は巨人族の中でも体格と腕力に恵まれた人物らしく、その実力は間違いなく国内最強で若かりし頃はトロールを殴り殺したという逸話までもある。
実際にトロールを殴り殺したのかは不明だが、それがもしも本当の話ならば巨人国の大将軍はナイをも上回る膂力の持ち主という事になる。リンの話によればその巨人国の大将軍が現在は軍隊を率いてアチイ砂漠に滞在し、超大型魔物「土鯨」の調査を行っているという。
「巨人国の大将軍テラン殿は街に軍船を10隻も待機させ、我々が用意した風属性の魔石が届き次第に土鯨の探索を再開するそうです。しかし、土鯨の探索の共同調査に関しては断られました」
「やはり、一筋縄ではいかないか……」
「なんと無礼な……我々が苦労してここまで来たというのに追い返す気か!!巨人国は王国を軽く見ているのか!?」
「止すんだ、彼等からすれば僕達は勝手に自分達の領地に軍勢を率いて訪れた事に等しい。彼等の気持ちも汲んでやるんだ」
テランの返答を聞いた王国騎士の一人が憤慨するが、巨人国側とすれば王国の協力は求めたが、まさか風属性の魔石の提供だけではなく、王国騎士団を連れて自分達の領地に訪れるなど予期せぬ出来事だった。
土鯨の探索のためには砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を王国から受け取るしかないが、やはり巨人国側としては事前の連絡も無しに騎士団を率いた飛行船が訪れるなど予想もできない事態だった。それに今回の一見はあくまでも巨人国の領地で起きた問題であるため、他国に介入されると色々と面倒な事になる。
それでも王国としても巨人国とこれまで通りに商業を行うため、ここで黙って引き下がるわけにはいかない。巨人国側が何と言おうとここまで来た以上は退き返すわけには行かず、仕方なくバッシュは自ら出向いて交渉する事にした。
「このままでは埒が明かないな……明朝、俺が出向いてテラン大将軍と交渉しよう」
「王子!?それはいくらなんでも危険過ぎるのでは!?」
「巨人国は王国の同盟国だ。それにあちらとしても王子である俺が出向くのならば無碍な扱いはできまい」
「し、しかし……」
「お前達が何と言おうと俺はテラン大将軍と会うぞ。だが……アルト、ナイを借りるぞ」
『えっ?』
ナイの名前が出てきた事に全員が驚くが、アルトはバッシュの言葉の意図を察したように頷き、
「ナイ君、兄上の護衛を頼むよ」
「え?それは構わないけど……」
「お、王子!!護衛ならば我々が……」
「いや、駄目だ。きっとテラン大将軍との交渉の時、ナイの力が必要になるだろう。それともお前達はナイが護衛になる事に不満があるのか?」
「そ、そういうわけでは……」
バッシュはナイを連れて行く事を頑なに告げ、側近の騎士達はバッシュの命令に逆らえない。どうして自分を急に護衛として連れて行く事に決めたのかとナイは疑問を抱くが、アルトはナイの肩を掴んで兄の事を頼む。
「ナイ君、兄上の事は頼んだよ。それと君も気を付けてくれ」
「気を付けろって……何を?」
「テラン大将軍は種族に関係なく、自分が認めた
「つ、つわもの?」
「分かりやすく言えば君の強さをテラン大将軍に知らしめればいいだけさ。そんなに難しい事じゃないだろう?」
アルトの言葉にナイは混乱するが、ともかく明日の朝を迎えたらナイはバッシュの護衛として彼と共に砂漠の街へ向かう事が決まった――
――アチイ砂漠に存在する街は一つしかなく、その名前は「ネツノ」という名前だった。砂漠の中で唯一に安全に人が暮らせる場所であり、この場所にはオアシスがあるので水不足の心配はない。
出発の際にナイはリザードマンに乗り込むが、彼の他に護衛としてリンも同行する。連れてきたリザードマンの数の問題で3頭しか用意できず、バッシュ、ナイ、リンの3人だけで向かう事になった。
「ううっ……さ、寒い」
「日中と夜では気温に差があるとは聞いていたが……ここまで寒いとはな」
「ですが、今の時間帯ならば魔物に一番見つかりにくいらしいです。今のうちに進みましょう」
砂漠の夜は昼間と比べて一気に気温が下がり、ナイ達は厚着した状態で出発する。
完全に夜が明ける前に出発したのは事前の情報によると夜から朝になる時間帯が一番魔物に襲われにくい時間帯だからであった。
バッシュの護衛はナイとリンが務める事になるが、リンは昨日も砂漠を横断しているとはいえ、まだまだ砂漠の魔物との戦闘には慣れていない。ナイの方も初めて訪れる場所なので緊張感を隠せず、二人とはぐれないようにしっかりと付いて行く。
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