特別編第58話 《砂船の確保》

――横転した砂船を引き上げるために飛行船を急遽発進させ、砂船と飛行船を繋げるためにナイが引き抜いた鎖付きの銛が再利用された。



「よし、引っ張れ!!」

『うおおおおっ!!』



飛行船が浮き上がると甲板には大勢の男が集まり、砂船から射出された銛を固定して引き上げる。砂船が浮上すると横転していた砂船もゆっくりと引き上げられ、どうにか体勢を立て直す事に成功した。



「よし、成功したぞ!!」

「す、すげぇっ……」

「ほ、本当に船が浮いた……何なんだよあれ!?」

「砂船じゃなかったのか……」



砂賊はナイ達が乗っていた飛行船を砂船の類だと思い込んでいたが、実際は空を飛ぶ船だと知って驚愕の表情を浮かべる。彼等は最初に飛行船を見かけた時はただの商船だと思い込んでいたが、まさか王都から訪れた飛行船などとは想像さえできなかった。


どうにか飛行船の力で砂船を元通りに起き上がらせると、その後は破損した箇所を確認して修復作業を行う。幸いな事に砂船を構成する船は海を移動する船よりも頑丈にできており、ハマーンや彼の弟子達が確認した限りでは破損個所は殆どない事が判明する。



「王子、この船なら修理すればまた動けそうじゃ。だが、儂等には砂船を動かす操舵技術はないぞ?」

「十分だ、この盗賊達を閉じ込めておく場所を確保できれば問題はない」



砂船を直したとしても生憎と船を動かす操舵手はおらず、残念ながらナイ達では砂船は運転する事はできない。だが、盗賊達を捕まえて管理する場所としては十分であり、捕縛した状態の彼等を船内に押し込めておく。



「一応は言っておくが、もしも不審な行動をしたら貴様等を始末する。いくらここが他国の領地であろうと我々に危害を加えるつもりならば容赦はしない」

「は、はひっ!!」

「もう逆らいません!!」



盗賊達を砂船の船内に閉じ込める際にバッシュは念入りに注意すると、もう反抗する意思も折れたのか盗賊達は逃げる様に船内の倉庫に引きこもる。元々は商船だったので大量の荷物を預けられるように船内には大きな倉庫が内蔵され、ここに閉じ込めて置けば盗賊達はどうしようもできない。



「ふうっ……これで一件落着かな」

「いや、そうでもないよ。盗賊達は閉じ込める事はできてもまだ問題は残っている」

「え!?まだ何か問題が!?」

「うむ、重要な問題じゃ……」



アルトとハマーンの言葉にナイは驚き、まだ他にどんな問題が残っているのかと緊張すると、二人は目を光り輝かせて砂船を駆け出す。



「この船の調査さ!!いったいどんな原理で砂漠を移動しているのか突き止めないといけない!!」

「うほぉっ!!砂船に乗るのは儂等も初めてじゃからな!!色々と調べつくすぞ!!」

「ええっ……」

「……あの二人は放っておけ、いずれこの船も巨人国に引き渡す必要がある。その前に調べられる所は調べたいんだろう」



まるで子供のように船の中を駆けまわるアルトとハマーンにナイ達は呆れるが、バッシュの言う通りにこの船は盗まれた商船なのでいずれ返却しなければならない。


巨人国に引き渡す前にアルト達は砂船の構造を調べ上げるつもりらしく、その後は二人は連絡の使者が戻ってくるまで砂船の中を駆け巡って調査を続けた――






――時刻は夕方を迎えると、街に向けて出発した使者が無事に戻ってきた。但し、帰ってきたのはリンだけでドリスの姿はなく、彼女は戻ってくると早々に水を要求し、小さめの壺に入った水を用意すると一気に飲み込む。



「ぷはぁっ!!はあっ、はあっ……し、死ぬかと思った」

「リン、大丈夫か?」

「ええ、申し訳ございません。ここまで戻る道中で色々とありましたから……」

「それで首尾はどうじゃ?」



砂漠の道中はかなり苦労をさせられたらしく、リンの衣服はあちこちが汚れていた。王国騎士の代表格でもある彼女でさえも砂漠の行軍は苦労したらしく、それでも任務を達成して戻ってきた事を報告する。



「街に滞在していた巨人国の軍隊と接触を図る事に成功しました。既に我々が砂漠に赴いている事を伝えています」

「そうか……軍隊を率いているのは巨人国の大将軍か?」

「はい、我々が風属性の魔石を運んできた事を知ると喜びましたが、飛行船で軍勢を率いて赴いた事には気分を害しておりました」

「まあ、当然と言えば当然の反応じゃな」



巨人国は王国側に協力を求めたのは砂船を動かすのに必要な風属性の魔石の提供だけだったが、まさか王国が飛行船で騎士団を率いて応援に駆けつけるなどとは予想もしなかった。


しかし、約束通りに巨人国側が要求した風属性の魔石を運び込んだ事は確かであるため、巨人国軍としてはこのまま王国の軍隊を無下に追い返す事はできない。ここで追い払う様な真似をすれば魔石の引き渡しを拒否される恐れもあり、それだけは巨人国側も避けなければならない。魔物の討伐のためにはどうしても砂船を動かす必要があり、王国の協力が必要不可欠だった。

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