特別編第54話 《アチイ砂漠》

――イチノにて最後の補給を終え、ナイがイチノの人々と別れを告げた後、遂に飛行船はアチイ砂漠へ向けて本格的に移動を行う。ここまで移動する間にいくつか問題は起きたが、遂に飛行船はアチイ砂漠へ到着した。



「うっ……暑い、火山の時も暑かったけど、ここは同じぐらい暑い気がする」

「す、凄い……これが砂漠ですか」

「うへぇっ……こんなに暑いなら冷房用の魔道具でも用意すれば良かったですね」



アチイ砂漠に到着した途端にナイ達は砂漠の熱気を感じ取り、予想以上の熱さにほぼ全員が砂漠の熱気に表情を歪める。飛行船は砂漠の入口付近に辿り着いたところで着地し、ここから先は慎重に動かなければならない。


今回の飛行船の到来は巨人国側からすれば予期せぬ到来であり、まずは王国側は飛行船でアチイ砂漠に出現した魔物の討伐を協力する事を伝えなければならない。そこで飛行船でアチイ砂漠に存在する街に向かう前に連絡を送る必要があった。



「リザードマンの準備が整いました!!」

「よし、では使者を派遣しろ。ドリス、リン、くれぐれも気を付けるんだぞ」

「お任せください!!」

「はっ」



連絡役の使者はドリスとリンが行い、王国の中でも二人は王国騎士団の代表格といっても過言ではなく、巨人国側も連絡の使者がこの二人ならば無碍な扱いはできない。


本来であれば王族のバッシュかアルトが出向いて事情を説明するのがいいだろうが、アチイ砂漠は色々と危険が大きく、戦闘力が高い人間に使者を任せる方が確実だった。



「王子、ちょいと問題が起きましたぜ。この暑さのせいで飛行船の装置が過熱して長時間の高速飛行はできん。装置が壊れれば船も動かせなくなるのでここでは今まで通りに飛行船は飛べないと思ってくだされ」

「長時間の飛行はできない?ではどの程度は飛べる事ができる?」

「せいぜい1時間……それ以上に飛行船を無理に飛ばすと噴射機がイカれちまうかと」



砂漠の熱気に飛行船の噴射機が予想以上に影響を受けており、下手に作動させると噴射機が過熱して最終的には装置が耐え切れずに壊れてしまう可能性があるとドルトンは告げる。だが、その話を聞いていたイリアが真っ先に反応する。



「ちょっと待ってくださいよ、冷却装置は備わっていないんですか?」

「冷却装置?」

「分かりやすく言えば熱を抑えるための装置です。水属性の魔石を利用して冷気を生み出して装置を冷やすんですよ」

「たわけっ!!それぐらいの装置など当の昔に取り付けておるわい!!だが、冷却装置を作動するのに必要な水属性の魔石が不足しておるんじゃ!!」



ドルトンによれば噴射機にも当然だが冷却装置は備わっているが、肝心の冷却装置の要である水属性の魔石が残り少ないという。どうして水属性の魔石が不足しているのかというと、この砂漠という環境が悪かった。



「水属性の魔石を利用すれば飲料水を生成する事もできる。今回の飛行船の乗員がどれだけいると思っておる?いくら飲み水があっても足りんぐらいじゃ」

「それならイチノに戻って補給すれば……」

「いや、そんな暇はない。第一に飲み水ぐらいならばこの砂漠にもオアシスがあるはずだ。そこへ補給すればいい」

「オアシス?」

「砂漠でも水がわいて樹木のはえている緑地……分かりやすく言えば泉ですね」

「こんな場所に泉があるんですか?」



飛行船の甲板からでは見渡す限り砂漠しか広がっていないが、地図に寄ればこの砂漠にはいくつかオアシスがあるらしく、そこに赴けば水は確保できる。但し、そのオアシスに辿り着くまでの道中が色々と厄介だった。



「この砂漠には例の大型の魔物以外にも多数の危険種が生息しておる。本来であれば砂船以外の移動は危険だが、お主等もくれぐれも注意するんじゃぞ」

「ええ、大丈夫ですわ」

「私達ならば問題はない」



飛行船に飼育していたリザードマンに乗り込んだドリスとリンは砂漠の街に向けて出発し、二人の実力ならば魔物に襲われても平気だと思われる。しかし、例の大型の魔物に襲われた場合は二人でもどうしようもないだろう。


二人が無事に街に辿り着く事を祈りながらナイ達も飛行船にて待機し、余計な体力を消耗しないように甲板から船内へと移動する。しかし、船の中も暑くて落ち着いて休む事ができない。



「あ、熱いですね……ミイナは大丈夫ですか?」

「ううっ……暑くて死にそう、水が飲みたい」

「噂には聞いていたが、まさか砂漠がここまで暑いとはね……おや、ナイ君は割と平気そうだね」

「そう?暑いとは思ってるけど……」



アルト、ヒイロ、ミイナは砂漠の熱気に耐え切れずに船内で項垂れる中、ナイだけは割と涼し気な表情を浮かべていた。熱耐性の技能を持つ彼ならばこの程度の熱気は耐えられた。それでも普通の人間にとっては厳しい環境である事に変わりはなく、こんな砂漠によく人が暮らしていけるとアルトは感心する。

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