特別編第53話 《久々のイチノ》

ゴノを出発してから時は経過し、遂に飛行船はアチイ砂漠に向かう前の最終補給地点へ到着する。この場合の補給とは飛行船の燃料ではなく、兵士達の食料品の補給のために降りる事を意味している。


一応は出発前に余裕があるように食料は用意してあるが、飛行船の点検も必要なので定期的に地上に着地する必要がある。そこでアチイ砂漠に辿り着く前に最後の補給地点として選ばれたのはイチノであった。


イチノにはかつて飛行船で訪れた事があったのため、街の人々は新しい飛行船を見てもそれほど驚かずに受け入れてくれた。そしてナイは久々に自分にとっては二人目の父親であるドルトンと再会した。



「ドルトンさん!!お久しぶりです!!」

「おおっ、ナイではないか!!よく来てくれたな!!歓迎するぞ!!」

「お帰りなさいませ、ナイ様!!」

「お坊ちゃん!!俺の事を覚えてますか!?」

「ナイ坊ちゃんが戻って来たぞ!!」



ドルトンの屋敷に訪れるとナイは盛大に歓迎され、顔見知りの使用人たちも迎えに来てくれる。どうやらドルトンの元から離れていた使用人たちも再び戻って来たらしく、彼等は快くナイを歓迎してくれた。


以前に魔物の襲撃を受けた時に使用人の殆どは逃げ出してしまったが、彼等にも自分の家族を守るために必死だっただけでドルトンは逃げた彼等の事を責めはしなかった。それどころか以前のように自分の元へ戻ってきた事に嬉しく思う。


屋敷の使用人とはナイも子供の頃にあった事があり、主にドルトンがまだ村に商売に来ていた時に顔を合わせている。ドルトンはナイを歓迎すると、何時までいられるのかを尋ねる。



「ナイよ、今日は泊まって行けるのか?」

「あ、いや……補給が済み次第に飛行船は出発するので時間はあんまりありません」

「そうか、それは残念じゃな……ビャクは元気か?」

「はい、最近はちょっとたるんでお腹が膨らんできました」

「ははは、それは困ったな」



実の親子のようにドルトンとナイは仲睦まじく話し合い、時間が許す限り二人は語り合う――






――同時刻、陽光教会の方では司祭であるヨウと修道女のインが飛行船を訪れた話を聞き、二人は神妙な表情を浮かべていた。ヨウは飛行船の姿を目撃した時、彼女は以前に見た「予知夢」の事を思い出す。



「間違いありません、あの船は私が夢で見た物です」

「そ、それは確かなのですか?では、あの船にナイが乗っていれば……」

「いえ、まだ分かりません……今の所は嫌な感じはしません」



ヨウは「予知夢」という能力を持ち、彼女が見た夢は必ず現実になる。そしてヨウはかつて信じられない大きさの巨人と、それと向かい合うように浮かぶ巨大な飛行船の夢を見た。


飛行船の甲板には二つの大剣を所持するが存在し、その青年がナイであるかどうかは彼女にも分からない。だが、大剣を二つも扱う剣士など彼以外には滅多にいない。



「ナイもここへ来ているようです。注意しておくべきでしょうか?」

「……いえ、あの子はかつて私の悪夢を打ち破りました。それに今の時点で私の夢の内容を告げたとしてもあの子以外の人が信じるとは思えません」



ヨウの予知夢の事を知っている人間は限られており、ナイならば彼女の話を信用するだろうが夢の内容が突飛過ぎるだけに他の人間が簡単に信じてくれるとは思えない。


それにナイはかつて二度もヨウが見た悪夢の運命を打ち破り、生き残る事に成功した。だからこそヨウは彼を信じてナイならば自分の悪夢など打ち破って生きていける事を確信する。



「ナイならば大丈夫でしょう……あの子は強い、誰よりもたくましくなりました」

「……ここで過ごしていた日々が遠い昔のように思えます」

「ええ、そうですね」



まだナイが陽光教会の世話になっていた頃の事を二人は思い返し、あの頃と比べればナイは立派に育った。だからこそ彼女達はナイの力を信じて敢えて夢の内容は語らない事にした。



「ナイに余計な心配をかけさせるわけにはいきません」

「そうですか……それがヨウ様の判断ならば私は何も言いません」

「ええ、きっと大丈夫です。きっと……彼の平和を祈りましょう」



二人は陽光神に祈りを捧げ、いずれ訪れるであろうナイの危機を予感しながらも二人は陽光神が彼を守る事を祈る――

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