特別編第49話 《鍛冶師達の判断》

――それからハマーンが目を覚ますまで飛行船は村の前で待機していたが、結局は鍛冶師達は訪れる事はなかった。彼等はこのまま村に暮らす事を選択したらしく、飛行船はアチイ砂漠に出発する事を命じる。



「結局、来なかったね……あの人たち、どうなるんだろう」

「それは分かりません。でも、私達は忠告はしました。後はあの人達の自己責任です」



甲板にてナイは鍛冶師達が訪れるのを待ち続けたが、結局は誰一人として飛行船で避難する人間はいなかった。鍛冶師達は村を捨てる事ができず、このままマグマゴーレムが支配する火山で生活する事を決めたらしい。


イリアもこの結果を予想していたのか特に動じた様子はなく、鍛冶師達の運命は彼等自身で決めるしかない。結局は飛行船は鍛冶師達を乗せずに出発する事になった――






――ハマーンは目を覚ますと彼は二日酔いに悩まされながらも本来の予定通りに飛行船を動かす。かなり出発時間は遅れたが、そもそも飛行船が1日の間に動かせる時間は決まっているので日暮れ前に出発できれば問題はなかった。



「いててっ……ちょいと飲み過ぎたな」

「全く……次に酒に溺れたら航海中は禁酒にするぞ」

「ええっ!?お頭、勘弁して下さいよ!!」

「酒が飲めないなんてやってられませんよ!!しっかりしてください、お頭!!」

「分かっとるわい、いちいち耳元で騒ぐな……うぷっ」



まだ完全には二日酔いは覚めていない状態ではあるが、ハマーンは飛行船を動かして次の目的地へと向かう。グツグ火山に立ち寄ったお陰で燃料の方は十分確保しており、この調子ならば早ければ明日の夜にはアチイ砂漠に到着する。


しかし、今の所は飛行船が着地する場所で様々な問題に巻き込まれているので安心はできず、用心のためにバッシュは次の目的地を確認する。飛行船が次に着地する場所は広大な草原だった。



「次の目的地は草原か……魔物に襲われないように配慮しなければならないか」

「ご安心ください王子、どんな魔物が訪れようと私達が撃退しますわ」

「ふんっ……肝心な時に毒で倒れていた奴の言う事は説得力がないな」

「な、何ですって!?リンさんだって対して役に立ってなかったでしょう!!」

「ふざけるな!!私がいなければナイは死んでいたんだぞ!?」

「いちいち喧嘩するな、やかましい!!」



言い争いを始めようとしたドリスとリンに対してバッシュは怒鳴りつけ、彼も予定よりも飛行船の進行が遅れている事に苛立ちを感じていた。それもこれもハマーンが酒に酔いつぶれて倒れた事が原因であり、当の本人は二日酔いでありながらも船を運転する事を強要されて気分は悪そうだった。



「ううっ……すまんが、ちょっと誰か運転を代わってくれ。吐きそうじゃ」

「運転を代われと言われても……飛行船を運転できるのはお頭だけじゃないですか」

「そうそう、自分が飛行船を運転するんだと言い出して俺達には触らせてもくれなかった癖に」



二日酔いが酷いのかハマーンは頭を抑えるが、この飛行船の運転技術を持ち合わせているのは彼だけである。彼以外に飛行船を運転できる者はいない以上は彼に頑張ってもらうしかない。



「本を正せばお前が酒に溺れたからこんな結果になったんだ。予定通り、しっかりと本日移動する分の距離まで運転してもらうぞ」

「わ、分かっておる……これからは酒を控えるか」

「全く……ん?何ですのあれは?」

「どうした?」



窓の外を見たドリスは外の風景を確認して不思議そうな声を上げ、彼女が何を見たのかとリンは覗き込むと、彼女は驚きの声を上げる。



「あれは……!?」

「王子、外を見てください!!」

「何だ?」



ドリスの声を聞いてバッシュは何事があったのかと彼は外の風景を確認すると、地上の方で煙が上がっている事が判明した。しかも煙が上がっている場所は街らしく、何が起きているのか不明だがすぐに確認する必要があると判断したバッシュは指示を出す。



「街で煙が上がっている!!一旦、飛行船を着地させろ!!」

「何!?おい、着陸準備だ!!」

「は、はい!!」



バッシュの命令の元、飛行船は緊急着陸を行うと各騎士団はすぐに煙が上がっている街に出向く準備を行う――






――結論から言えば煙が上がっていた街はどうやら魔物の襲撃を受けていたらしく、城門は破壊されて街の建物も被害を受けていた。飛行船に乗船していた騎士団が駆け出した時には既に魔物は引き上げた後だと判明する。


バッシュは街の領主を呼び出して何が起きたのかを問い質すと、領主は街を襲った魔物の正体を語る。その正体を知ると全員が驚愕の声をあげる。



「領主、今何と言った?」

「は、はい……この街を襲ったのはトロールの群れでございます」

「トロールの……群れ?トロールが群れを率いて街に襲い掛かって来たんですの!?」



領主の言葉を聞いてドリスは信じられない声を上げ、それほどまでに領主の話は本来ならば到底有り得ない出来事だった。

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