特別編第50話 《トロールの群れ》
――王国内にもトロールは生息するが、トロールの生息地域は王国の北部で獣人国との領地の境目でよく見かけられる。しかし、飛行船が訪れたのは王国の南部で本来ならばトロールは生息しない地域である。
それにトロールは群れを成して行動する事自体があり得ず、トロールという種は常に食べ物を食し続けなければ落ち着かない生き物であり、獲物を独り占めする傾向がある。時には同種であろうと空腹のあまりに襲い掛かる事もあった。
トロールの生息地域では縄張りに入った獲物をトロールは独り占めするため、仮に同族であろうと縄張りに入り込めば躊躇なく襲い掛かる。だからこそトロールは群れを成して行動する事自体が本来ならばあり得ない事態だった。
しかし、飛行船が到着した「ゴノ」と呼ばれる街は突如として出現したトロールの群れに襲われて街は壊滅状態に陥り、しかも今回が初めての襲撃というわけでもない事が判明する。
「一週間ほど前からトロールの群れは我が街を襲撃し、城壁を突破しては我が街の住民や食べ物を奪っています。我々も必死に抵抗しましたが、力及ばずにこのような結果に……」
「馬鹿な……冒険者はどうした?」
「最初の内は共に戦ってくれましたが、今では殆ど残っておりませぬ。大半は逃げてしまい、残ったの者達もトロールの餌食に……」
「そんな……」
話を聞いたリーナは衝撃を受け、ゴノの街はイチノやニノの街よりも大きく、街の規模が大きいほどに冒険者の数も多いはずである。だが、ゴノの領主の話によれば現在では冒険者は殆ど残っていないという。
トロールは魔物の中でも危険度は高く、地域によっては赤毛熊などよりも恐れられている。ナイもトロールと戦った事があるので危険性はよく理解しているが、それでも街の冒険者が手も足も出なかった事に疑問を抱く。
「その街を襲ったトロールは1匹も仕留める事ができなかったんですか?」
「いえ、実は1体だけ罠を仕掛けて仕留める事ができました」
「1体だけ……」
「どうぞ、直接ご確認してください。そうすれば奴等がどれほど恐ろしい存在なのか分かります」
領主の案内の元にナイ達は場所を移動すると、街の中央にまで移動する。するとそこには人だかりができており、大勢の住民が集まって街を襲撃したトロールの死骸に物を投げつけていた。
「くそっ!!こいつらさえいなければ!!」
「うちの息子を返せ!!」
「よくもお袋を!!」
「や、止めろ!!お前達、止めるんだ!!」
街の広場にて倒れ込んでいるトロールの死骸に住民達は押し寄せ、死体に向けて石を投げつける。兵士達は彼等を必死に落ち着かせようとするが、その様子を見てバッシュは仕方なく彼等に声をかける。
「止めろ!!」
『っ!?』
バッシュの一言で住民達は動きを止め、驚いた様子で振り返る。兵士達の声には反応しなかった彼等だが、バッシュの一言で住民達は静まり返った。
次期国王と謳われるバッシュは威厳に満ちた声と態度で住民達を黙らせ、彼を見るのは初めての人間でもバッシュの雰囲気だけで只者ではないと感じとる。そしてドリスがバッシュの代わりに彼の正体を語る。
「表を下げなさい!!この御方は王国の第一王子、バッシュ王子ですわ!!」
「バ、バッシュ王子!?」
「第一王子だと!?」
「ど、どうして王子様がここに!?」
住民達は慌てた様子で跪くと、バッシュは彼等を手で制して倒れているトロールの死骸の確認を行う。彼は死骸を見て最初に疑問を抱いたのはトロールの身体に刻まれている紋様だった。
「この紋様は……馬鹿な」
「そ、そんな!?」
「まさか……」
トロールの死骸には「鞭」を想像させる紋様が刻まれており、それを確認したバッシュ達は驚愕の表情を浮かべる。その一方で同行していたナイは何をそんなに驚いているのかと疑問を抱くが、この時にマホに同行していたエルマが膝を着く。
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
「エルマさん!?どうかしたんですか?」
「ふむ……まさか、またこの紋様を目にする時が来るとはな」
「い、いったい何なんですか?この紋様の事を知ってるんですか?」
「私達にも教えてほしい」
エルマの反応とマホの言葉を聞いてヒイロとミイナも反応し、この二人もナイと同様に何も知らない様子だった。他にもリーナや若手の騎士達はバッシュ達が何を驚いているのか分からずに疑問を抱く。
しばらくの間はトロールの死骸の前で呆然と立ち尽くしていたバッシュ達だったが、意を決したようにバッシュはドリスに頷き、全員に説明する様に促す。
「こ、この紋様は……かつて王国で処刑された犯罪者が使用していた紋様ですわ」
「犯罪者?」
「王国史上でも最も最悪な被害を引き起こした大罪人……無数の魔物を操り、多くの人々を苦しめた最悪の犯罪者ですわ」
「最悪の犯罪者……」
「その男は自分の事を捕食者と名乗り、聖女騎士団が捕縛して王国で処刑されたと私は母から教わりましたわ……」
ドリスは震える声で説明し、彼女の反応から処刑された犯罪者がどれほど恐れられた存在だったのか伺えた。
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