特別編第48話 《弱肉強食の時代》
「そ、そんな化物が俺達の火山に住み着いているなんて……な、なあ!!あんた達でそいつをどうにかできないのか?」
「不可能ですよ。第一に私達はアチイ砂漠に向かわないといけないんです、この場所に留まる時間もそう残されていません」
「そんな!!あんたら、それでも国を守る騎士かよ!?」
「都合の良い時だけ助けてもらえるなんて思わないでください。貴方達は昨日、バッシュ王子に対して何て言ったのか忘れましたか?」
「そ、それは……」
イリアの言葉に鍛冶師達は罰が悪い表情を浮かべ、彼等はこの国に暮らす民ではあるが王国に忠誠を誓っているわけではない。現に王族であるバッシュが火属性の魔石を求めた時も相応の対価を彼等は求めた。
危険が迫った時にこの国の民衆として守ってもらい、それ以外の時は王族相手であろうと対価がなければ要求は受け付けないというのはあまりにも都合がいい話だった。イリアも王族に仕える身として彼等に注意する。
「勘違いしないでくださいよ、私達は人助けのためにここへ訪れたんじゃありません。ここへ立ち寄ったのは魔石を買い取るために来ただけです。命を賭けて貴方達を助ける理由もありません」
「こ、この人でなしがっ!!」
「その人でなしに治療してもらったのは誰ですか?私達がいなければここにいる怪我人は全員が死んでたんですよ」
「うっ……」
「イリアさん、それ以上は……」
鍛冶師達はイリアの言葉に言い返す事はできず、グツグ火山で起きた問題は火山を管理する彼等が解決しなければならない。それに今回の騒動に関しては鍛冶師達にも問題はある。
巨大ゴーレムやマグマゴーレムが火山の魔石を独占した理由は、鍛冶師達が日頃から魔石を採掘して火山内の魔石が減少していたのも原因の一員である。つまり、今回の事態は鍛冶師にも責任があり、その事を自覚していない彼等にイリアは言い放つ。
「今回の騒動の原因は貴方達がこの火山を独占して魔石を採掘し続けてきたのも理由の一つです。命が惜しいのであれば火山を捨てて何処か別の場所に暮らしてください」
「そ、そんな事を言われても……」
「俺達はここで生まれ育ったんだぞ!?他に生き場所なんて……」
「生まれ故郷を失うなんて事は今の時代では珍しくもありません……ここにいる私もナイさんも故郷を失っています」
「えっ……?」
生まれた時から火山で暮らしてきた鍛冶師達にとってはイリアの言葉を納得できるはずがないが、彼女は自分の故郷も失われた事を話す。そんなイリアの過去があるのはナイも初耳であり、彼女も自分と同じように故郷を失った人間とは知らなかった。
イリアの過去は彼女の育て親から少し聞いた事があるが、どうやらイリアの故郷は現在はもうなくなっているらしく、その理由はナイと同じように魔物に滅ぼされたからだと語る。
「私の暮らしていた街はもう跡形もなく滅びました。魔物に滅ぼされたんですよ、もう戻っても誰も住んでいません。ですけど、これは別に珍しい事でも何でもないんです。この王国だけでも数年間でどれだけの村や街が魔物の被害でなくなったのか知っていますか?」
「そ、そんな事を言われても……」
「貴方達はまだ生きています、でもこの村に残り続ければいずれは死んでしまうでしょう。決めるのは貴方達です、この村から逃げるというのであれば近くの街まで飛行船に乗せてあげてもいいですよ。私の方から王子に話は通しておきます」
「ま、待ってくれ!!」
「待ちません、これ以上に貴方達と話す暇はありませんから……自分達の問題は自分達で解決して下さい」
『…………』
鍛冶師達は立ち去るイリアとその後ろに続くナイに声を掛ける事はできず、彼等はどうするべきかお互いの顔を見るが、すぐに答えなど思いつくはずがなかった――
――帰り道の途中、ナイはリザードマンに乗り込んで黙っているイリアに何と話しかければいいのか分からなかった。ナイはイリアの故郷が滅んでいるなど知らず、どんな声を掛けようかと悩んでいると、唐突にイリアが振り返って話しかける。
「ナイさん、さっきの話は忘れてください」
「えっ……それって、故郷の事?」
「そうです」
ナイはイリアの方から故郷の話題を出した事に驚き、やはり彼女も失った故郷の事を思い出すのは辛いのかと考えたが、ここで衝撃の一言を告げる。
「だって私の故郷は滅んでませんから」
「えっ」
「あんなのその場しのぎの嘘ですよ、嘘!!」
「ええっ!?」
思いがけないイリアの言葉にナイは驚愕し、そんな彼に対してイリアは悪びれもせずに嘘を吐いた理由を話す。
「あの人たちの態度を見ているとこっちもイライラして、つい口からでまかせをいっちゃったんですよ。最後のあの人たちの顔を見ました?私はすっきりしましたね」
「な、なんでそんな嘘を……」
「まあ、いいじゃないですか。大切なのはあの人たちに危機感を与える事です。あれでもまだ反省しないようなら本当に知った事じゃありませんよ」
悪びれもせずにイリアは笑いながら飛行船へと向かい、そんな彼女の言葉にナイは増々イリアという人物の事が良く分からなくなった――
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