特別編第47話 《退避》

ナイ達を見失った巨大ゴーレムは火口へ戻ると、その様子を岩陰で見ていたナイ達は安堵する。どうやら獲物を見失った事で巨大ゴーレムは諦めたらしく、今の内ならば逃げ切れるだろう。



「ふうっ……死ぬかと思った」

「私も本当に今回ばかりは駄目かと思いましたよ。でも、どうして見逃したんでしょうね」

「あの巨大ゴーレムが僕達を襲ってきたのは火属性の魔石を奪おうとした思ったからだと思います」



ナイは火口にて自分が火属性の魔石を掘り起こそうとした時、巨大ゴーレムが現れて襲い掛かってきた事を話す。その話を聞いたイリアは巨大ゴーレムが自分達を狙った理由を知ってため息を吐き出す。



「なるほど……つまり、さっきの巨大ゴーレムは自分の餌を奪おうとした私達を敵と認識して襲い掛かって来たんですね」

「多分、鍛冶師さん達を襲ったマグマゴーレムも火属性の魔石を掘り起こそうとしたから襲われたんじゃないかな?」

「なるほど、そう考えると納得できますね」



火山を訪れた鍛冶師達がマグマゴーレムに襲われたのは彼等が採掘しようとした火属性の魔石が原因であり、マグマゴーレムからすれば自分達の餌でもある火属性の魔石を奪いに来た人間を許せずに襲い掛かってきたと考えるべきだろう。




――これまで鍛冶師達がマグマゴーレムに襲われなかった原因はマグマゴーレムが火口付近に生息し、火口に誕生する良質な火属性の魔石を捕食していたからこそ鍛冶師達は襲われなかった。


だが、この世界全体で魔物の数が増え続けており、このグツグ火山に生息するマグマゴーレムも数が増えてきた。その影響で火口付近に採取できる魔石は全てなくなってしまい、餌が不足したマグマゴーレムは今度は火口付近ではなく、火山の中腹にも赴いて餌となる火属性の魔石を探し始めた。


鍛冶師達は運悪くマグマゴーレムに見つかってしまい、自分達の餌となる火属性の魔石を奪おうとする人間達を見てマグマゴーレムは襲い掛かってきた。それが今回の事件の全貌である。



「あんな化物がいる以上はこの火山でこれ以上に火属性の魔石の採掘は難しいですね……残念ですけど、グツグ火山の住民には注意しておきましょう」

「流石にあんな化物がいたらこの火山では暮らせませんよね」

「そうでもないですよ?要は定期的にマグマゴーレムを倒して数を減らせばいいだけです。ですけど、あれだけ巨大なマグマゴーレムとなると合体前のマグマゴーレムの数も相当な数ですね……」



マグマゴーレムの大量発生が今回の事件の要因であり、マグマゴーレムの数が減ればグツグ火山で誕生する火属性の魔石の原石を独占される事はなく、今まで通りに鍛冶師達も生活ができる。


だが、鍛冶師達が元の生活に戻るためにはナイ達が遭遇した巨大ゴーレムを何とかせねばならず、あれほどの化物を倒す手段は当然だが鍛冶師達は持ち合わせておらず、黄金冒険者でも不可能な話だった。



「あの巨大ゴーレム、間違いなく竜種級にやばい奴でしたね」

「今回は運よく生き残れたけど……また現れたら今度は殺されるかもしれないな」

「シャアアッ……」



早く逃げようとばかりにリザードマンがナイの服を咥えて引っ張り、彼の行動に賛同してナイ達は山を下りる事にした――






――巨大ゴーレムが現れた事に関してはナイ達は鍛冶師に報告を行い、最初は彼等も話を聞かされた時は到底信じられなかったが、マグマゴーレムに襲われた鍛冶師の中には巨大ゴーレムを目撃した人物も居た。



「じ、実は俺……皆に内緒で火口でも魔石を掘り起こしていたんだ。あそこなら一番質のいい魔石が採れるからな。だけど、最近は何故か火口付近の魔石が見かけなくなったんだ」

「何だと!?お前、そんな事をしていたのか!!」

「あれほど火口には近づくなと言っただろう!!」

「す、すまねえ……でも、俺だって生活のために仕方なかったんだよ。けど、実は前に火口の近くでとんでもない大きさのマグマゴーレムを見かけたんだ。あの時は怖くなって逃げ帰ったけど、冷静に考えたらあんな大きさのマグマゴーレムがいるはずがねえ……だから夢か幻を見たと思ってたんだ」

「……でも、実際にはその巨大なマグマゴーレムは実在していたというわけですか」



鍛冶師の中には巨大ゴーレムを確認した者もいたが、あまりに現実離れした巨大なマグマゴーレムの姿に発見した者は頭が理解できず、恐怖のあまりにただの幻だと思い込んでいたらしい。


しかし、現にグツグ火山の火口にはマグマゴーレムの大群が合体してキングゴーレム級の大きさを誇る巨大ゴーレムが実在するのは確かだった。今の段階ではこの巨大ゴーレムが火口から離れる様子はないが、このまま火山の魔石が喰いつくされればグツグ火山の麓に存在する鍛冶師の村も危険に晒される。

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