閑話 《その頃の白猫亭では……》

――討伐隊が出発した日の夜、業務を終えたモモはナイの部屋に入って彼のベッドの上に座り込んでいた。彼女は寂しそうな表情を浮かべ、ナイの使っている枕を抱きしめる。



「はあっ……ナイ君、会いたいよう」

「ちょっとモモ……あんた、また勝手にナイ君の部屋に入ってたの?」

「あれ?ヒナちゃん?」



ナイの部屋の扉が開かれると、心配した様子のヒナが顔を出す。ヒナは落ち込んでいる様子のモモを見て少し呆れてしまう。



「もう、いくら寂しいからってナイ君の部屋に入ったら駄目でしょ?」

「う〜……勝手じゃないもん、ナイ君がいない間は部屋の掃除は私がするように頼まれたもん」

「それならなんで寝間着姿なのよ……大方、寂しさを紛らわせるためにナイ君の部屋で眠ろうとしていたわね」

「そ、そんなことないよ〜……」



ヒナの言葉が図星だったのかモモはあからさまに視線を逸らすが、そんな彼女に対してヒナはため息を吐き出す。尤もヒナの気持ちも分からなくはなく、仕方なく今回だけは見逃す事にした。



「仕方ないわね……今日だけは見逃してあげるわ」

「え?本当に?」

「その代わりに明日の食事当番はモモが代わりなさい」

「う、うん!!頑張って作るよ!!」



従業員の食事は交代制で作っており、最近ではヒナやモモが客に食事を作る事も多い。現在はクロネが白猫亭の料理を任されているが、彼女もいずれは自分の酒場を再建させて一からやり直したいという気持ちがあった。


ヒナは白猫亭の経営で色々と忙しいために料理に関してはモモに頑張ってもらい、将来的にはクロネが白猫亭を辞めた後は料理を行うのは彼女になる。ちなみにテンは王国騎士団を辞めた後は白猫亭に戻ってくる予定だが、本人曰く自分の代わりに相応しい団長を見つけるまでは辞めるつもりはないらしい。



(リーナちゃんは一緒に行ったのに自分だけが取り残されて寂しかったのね。全く……ナイ君は本当に罪作りな男の子ね)



幼馴染としてはモモの恋の応援をしてやりたいヒナだが、流石に前の時のように飛行船に勝手に乗り込むような真似は出来ない。そんな事をすればまたテンや他の人間に迷惑を掛けてしまい、それが分かっているからこそモモも無茶はしなかった。



(何だかんだでこの子も大人になってきているのね……嫌だわ、何だか母親みたいな気分になってきた)



ヒナもモモと同い年にも関わらずに自分が彼女の母親のような気分を覚え、頭を振って考えを切り替えると彼女はモモに忠告する。



「モモ、ナイ君がいない間はしっかりと部屋の管理をしておくのよ。ナイ君が戻って来た時、心休まる部屋を残しておくのが貴方の役目よ!!」

「う、うん!!私、頑張るよ!!それじゃあ、まずはベッドの下から掃除を……」

「あ、いや……それは止めておきなさい。ナイ君も男の子だからもしかしたら……」

「え?何で?」

「い、いいからベッドの下の掃除は私に任せておきなさい!!」



ヒナの言葉にモモは首をかしげるが、断固としてヒナはナイのベッドの下の掃除だけはさせなかった――

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