特別編第44話 《グツグ火山の調査》
ナイがこれまで交戦したリザードマンは野生の種だが、飛行船に連れ込まれたリザードマンは卵から育てて人間の手で世話を受けている。野生のリザードマンは厳しい環境を生き抜くために力を身に付ける必要があるが、人の手で育てられたリザードマンは特に大きな危険もなく安全に育てられる。その影響なのか両者の外見は大きく違う。
野生種のリザードマンは人間のように二足歩行ではあるが、生まれた時点では蜥蜴のように四足歩行である。成長するにつれて二足歩行で行動するようになるのは厳しい環境を生き抜くため、リザードマンが両腕を使っての攻撃手段を身に付けたためである。
しかし、人の手で育てられたリザードマンは野生種のリザードマンとは異なり、比較的に安全な場所で育てられ続けたために自身の戦闘能力の向上をしようとは思わず、身体が成長しても四足歩行のままである。そのために野生種と比べると戦闘力は劣るが、人間の言う事を忠実に従うので騎乗用の魔物として愛用されていた。
「このリザードマンはまだ幼体ですが、山登りなら役立ちますよ。それに人間に慣れているので私達を襲う事はありません」
「なるほど……餌は何を与えているの?」
「穀物だけです。下手に動物や魔物の肉を与えるとその味を求めて暴れ出す危険性があるので肉を与えないんです」
「へ、へえっ……」
「シャアアッ?」
リザードマンは雑食だが人の手で育てられた個体は肉類は与えられず、その影響もあって野生種よりも成長が遅い。下手にリザードマンに肉を与えてしまうと、肉の味を覚えて自ら求めるようになり、他の動物や魔物を襲い掛かる。最悪の場合は自分を育てた人間にまで手を出す可能性もある。
そのためにリザードマンを連れて移動する際は穀物の餌を用意しなければならず、定期的に餌を与えないとリザードマンは言う事を聞かない。逆に言えば餌さえ与えればリザードマンは従うので今回の山登りには最適な魔物だとイリアは判断して連れて行く。
「それじゃあ、行きましょうか」
「えっ!?二人だけで行くんですか?」
「大人数で動けば見つかる恐れがありますからね」
「……大丈夫なのか?」
「問題ありませんよ、それじゃあ夕方までには戻ってくるので勝手に飛行船を飛ばさないでくださいね」
今回の調査はイリアはナイだけを連れて行う事を告げると、彼女はリザードマンに乗り込む。ナイはリザードマンに乗るのは初めてだが、イリアの後ろに座ると乗り心地は悪くなかった。
「うわぁっ……まさかリザードマンに乗り込む日が来るなんて思いもしなかったよ」
「本来は貴族でもないと飼育する事ができない貴重種ですからね、しっかりとくっついて下さい」
「わ、分かりました」
「気を付けて言ってくるんだぞ……時間までには必ず戻れ」
「はいはい、了解しました」
バッシュに見送られてナイ達はリザードマンの背中に乗り込んで出発すると、リザードマンは普通の馬よりも素早く移動を行う。
「シャアアッ!!」
「うわっ!?」
「しっかりと掴まって下さい!!山道はもっと揺れが激しくなりますからね!!」
リザードマンはイリアの言う通りに険しい山道に入っても移動速度は落とさず、普通の馬よりも早く坂道を登っていく。この調子ならば火口に辿り着くまでそれほどの時間は掛からないと思われたが、思っていた以上に揺れが激しくてナイは酔いそうになる。
「うっ……け、結構揺れますね」
「うぷっ……私もちょっと気分が悪くなってきました」
「シャアッ♪」
背中の二人が気持ち悪そうにしている事も気づかず、リザードマンは元気よく山道を移動する。飛行船に居た時はリザードマンは外にも出られずに閉じこもっていたため、久々に身体を動かせて嬉しそうだった。
山道をリザードマンは駆け上り、途中で何度か休憩を挟んだが昼前には目的地である火口付近に辿り着く。この時にイリアは火口へ赴く前に熱でやられないようにナイに熱耐性が高いマントを渡す。
「ナイさん、これを纏ってください」
「あ、これって……熱に耐性があるマントだよね?前にアルトから借りたよ」
「そうです。これを身に付ければある程度の熱さには耐えられます」
「でも、リザードマンは大丈夫?ここまでの移動で疲れていない?」
「シャアアッ?」
自分達を背負ってここまで移動したリザードマンが疲れていないのかを心配するが、当のリザードマンは火山の熱気の影響を全く受けていないかのように平気だった。
「このリザードマンは元々暑い地方で育てられてたんです。だからこれぐらいの熱気は平気なようですね」
「そ、そうか……無理しないでね」
「シャアアッ♪」
ナイがリザードマンの頭を撫でるとリザードマンは嬉しそうに彼に頭を擦りつけ、すっかりとリザードマンはナイに懐いていた。今まで人を襲うリザードマンとしか遭遇してこなかったため、ナイはリザードマンの行動に新鮮さを感じる。
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