特別編第43話 《グツグ火山の脅威》
「――これは思っていたよりも厄介ですね」
「う、ううっ……」
「た、助けてくれぇっ……」
「死にたくねえっ……」
バッシュの命令を受けてイリアは村に赴くと、酷い火傷を負った鍛冶師達の姿を見て悩む。とりあえずは治療するために薬を分け与えるが、火傷の類は回復薬の類でもすぐには治らない。
回復薬は人間に自然治癒力を高める効果を持つが、火傷の場合は簡単に治る事はできず、むしろ回復魔法の方が治るのが速い。そのためにナイもイリアに同行し、彼等に治癒魔法を施す。
「大丈夫ですか?すぐに治してあげますからね……ヒール」
「うあっ……い、痛みが引いていく?」
「坊主、治癒魔導士だったのか!?」
「いえ、でも回復魔法の基礎は教わりました」
ナイは陽光教会に世話になっていた頃に回復魔法も習得しており、更に聖属性の魔力を自在に操れるようになってからは回復魔法の精度も上がっていた。イリアも火傷用の薬を取り出して怪我人に分け与える。
「この痛み止めを飲んでください、これから火傷にちょっと特別な薬を塗ります。このままの状態で薬を塗ると大変な事になりますから痛み止めは必ず飲んでください」
「い、いったい何が起きるんだ?」
「痛み止め無しだとあまりの激痛に耐え切れずに暴れ狂う危険性があります」
「どんな薬だ!?」
イリアの説明を受けた鍛冶師達は驚愕の表情を浮かべるが、今は怪我をした者達を救うために彼女の指示に従う。怪我人に痛み止めと治療薬を渡した事で一先ずは全員の治療を終えた後、詳しい話を彼等から伺う。
「こんな火傷を負うなんていったい何があったんですか?マグマゴーレムにでも襲われましたか?」
「ああ、その通りだ……唐突に火口の方からマグマゴーレムが現れやがった」
「えっ!?ここにもマグマゴーレムがいるんですか?」
「基本的に火山地帯にはマグマゴーレムは生息していますよ」
「といっても、奴等は滅多に姿を現さないんだが……今回は違った」
火山の採掘に向かった鍛冶師達を襲ったのは先日にナイ達も遭遇した「マグマゴーレム」らしく、唐突に現れたマグマゴーレムにやられて鍛冶師達は怪我を負ったらしい。
但し、この火山に生息するマグマゴーレムは滅多に火口から離れる事はなかったのだが、襲われた鍛冶師達は火山の中腹で採掘をしていた所を急に現れたマグマゴーレムに襲われて逃げ帰ったという。
「奴等が今まで火口から離れて襲い掛かってくる事なんてなかったはずだ……それなのにいきなり現れて俺達を襲ってきやがった」
「マグマゴーレムに襲われるなんてここ数十年はなかったはずだぞ。いったい、何が起きてやがる……」
「もういい、これ以上に無理にしゃべるな……生きて帰れただけ有難いと思え」
グツグ火山に暮らす鍛冶師達はマグマゴーレムに襲われて怪我をしたのは数十年ぶりらしく、それだけに今回の出来事の異常性が伝わった。グツグ火山で何か異変が起きて火口に暮らすはずのマグマゴーレムが山を下りてきたのかもしれない。
「ふむ……これは出発前に少し調べる必要がありますね」
「調べる?まさか、火口に向かうんですか?」
「原因を突き止めない以上、ここの人たちも危険な目に遭わされるかもしれませんよ?それにナイさんも気になっているんでしょう?」
「それはそうですど……」
イリアは鍛冶師達の話を聞いてグツグ火山のマグマゴーレムが火口から離れて山の中腹にまで降りてきたのかが気にかかり、調査に出向くようにナイに促す。ナイとしても怪我をした人たちを見てせめて彼等が襲われた原因だけでも突き止めたいとは思った――
――怪我人の治療を終えてナイ達はバッシュに報告を行うと、彼も鍛冶師達がマグマゴーレムに襲われたという話を聞いて気にかかり、ハマーンが目を覚めるまで飛行船を動かせないのもあってナイとイリアの調査に許可を出す。
「なるほど、火山の調査か……分かった、いいだろう。但し、期限は日没までだ」
「日没までに原因を調査して戻って来ればいいんですね?それなら楽勝ですよ」
「え、でも山を登るとしたら結構大変なんじゃ……」
「こういう時の事を想定して騎乗用の魔獣も用意してるんですよ」
イリアによると飛行船には騎乗用の魔物も飼育する部屋もあるらしく、すぐに兵士が山を登る際に役立つ魔獣を連れてきた。
「シャアアッ!!」
「うわっ!?何、この大きな蜥蜴……」
「リザードマンです。正確に言えばリザードマンの幼体ですね」
飛行船に飼育されている魔獣はリザードマンの幼体であり、ナイが知っているリザードマンとは大分外見が違った。リザードマンと言っても生まれた環境と育ち方によって外見は大きく異なるらしい。
「安心して下さい、このリザードマンは人を襲わないように調教しています。ナイさんが戦ったリザードマンのような狂暴な魔物じゃありませんよ」
「へ、へえっ……」
「シャアアッ……」
イリアの説明を受けてナイは恐る恐るリザードマンの幼体に近付くと、人間が近付いてもリザードマンは反応せず、むしろ興味深そうにナイの顔を覗き込む。
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