特別編第42話 《グツグ火山の異変》

「……飛行船の設計には他の鍛冶師の方も関わっていたのでは?」

「ああ、特に魔導大砲などの兵器の内臓はイリアの提案だったと聞いているが……」

「ま、まあまあ……話も上手くいきそうですし、ここは黙っておきましょう」



ハマーンの発言にドリスとバッシュはこそこそと話し合うが、グツグ火山の鍛冶師達はハマーンの話を信じ込んで彼等はその場で膝を着いて懇願する。



「た、頼む!!是非、俺達に飛行船を作った時の事を詳しく話してくれ!!」

「鍛冶師なら……いや、職人なら死ぬ前に歴史に名前を刻むような大作を残したいんだ!!」

「いったいどんな発想があればあんなに立派な船を作れるんだ!!」

「うむ、まあ話すのもやぶさかではないが……本題を忘れてはならんぞ」

「あ、ああ……魔石とミスリル鉱石の交換だな?本当に渡した分の魔石の倍の量のミスリル鉱石を用意してくれるのなら俺達に文句はねえ!!」



鍛冶師達は一刻も早くにハマーンが飛行船を設計した時の話を聞くため、取引を結んでグツグ火山で採掘されている火属性の魔石をミスリル鉱石と交換という条件で引き受ける。


彼等からすれば色々な用途に扱えるミスリル鉱石を手に入り、ナイ達からしても飛行船に必要な燃料になる火属性の魔石を余分に手に入る。しかも鍛冶師に引き渡すミスリル鉱石は先の戦闘で倒したポイズンタートルから採取した代物であるため、いくらでも在庫は余っていた。



「では儂が飛行船の開発を国王陛下に頼まれた時の話からしようか」

「こ、国王が直々に飛行船の依頼を!?」

「す、すげぇっ……あんた、大した奴だよ!!」

「色々と聞かせてくれ!!あ、おい!!お茶を持ってこい!!」



鍛冶師達は王子であるバッシュよりもハマーンの方を丁重に持て成し、彼から飛行船の開発に至るまでの経緯を詳しく尋ねる。その様子を他の者は何とも言えない表情で見守るが、バッシュはため息を吐いて船に一足先に戻る事にした。



「ここでの用事は住んだ……燃料を積み次第、すぐに出発するぞ」

「そうですわね……」

「全く、これだからドワーフは……」

「あははっ……」



この場はハマーンに任せてナイ達は一足先に飛行船へ戻り、グツグ火山の鍛冶師達が約束通りに火属性の魔石を運び出すまで待つ事にした――






――翌日の朝、ハマーンは大分酒に酔った状態で戻ってきた。どうやらグツグ火山の鍛冶師達に盛大に歓迎されたらしく、彼は酔っ払った状態ながらも約束通りに大量の火属性の魔石を持ち返ってきた。



「ひっくっ……いやぁっ、あいつら中々話の分かる奴等でしてな。ほれ、予定の数よりも倍近くの魔石を渡してくれたぞ」

「それは大手柄だったな、ハマーンよ……だが、その調子でお前は飛行船を運転できるのか?」

「うぃっくっ……大丈夫、この程度の酒なんて飲んだうちにも入らない。それにドワーフにとって酒なんて水と大して変わらない……うぷぅっ!?」

「ちょっ……師匠!?」



戻ってきたハマーンは昨日の夜に深酒した影響か戻ってきて早々に嘔吐してしまい、その後は意識を失って治療室に運び込まれる。どうやら鍛冶師達に飛行船の話をするために余程飲まされたらしく、この状態ではとても運転は任せられない。


この飛行船の運転を行えるのはハマーンしかおらず、彼の部下達も飛行船を動かす事はできない。そのためにハマーンが目覚めるまでは飛行船は動かす事はできず、バッシュは頭を抱えてしまう。



「全く……飲み過ぎだ」

「バッシュ王子、我々はどうすれば……」

「どうすればもなにもハマーンがこんな状態では飛行船は飛ばせられない……目が覚めるまで出発を遅らせるしかあるまい」

「え〜っ……ここ、何もないから飽きたのに」

「仕方ありませんわね……」



ハマーンが酒の影響で寝入ってしまい、この状態ではしばらくは目に覚ませそうにないためにバッシュはハマーンが目覚めるまで飛行船の出発時間をずらす。尤も飛行船の移動速度ならばすぐに後れを取り戻せるため、ひとまずは焦らずにいつでも出発できるように船に待機する。


しかし、飛行船の待機中に昨日の交渉の場に存在した鍛冶師達が慌てた様子で訪れ、彼等はバッシュの面会を申し込んできた。飛行船に訪れた彼等はただならぬ雰囲気だったために見張りの兵士はバッシュに鍛冶師達の事を伝えると、すぐにバッシュは面会に応じた。



「バ、バッシュ王子!!良かった、まだここに居られましたか!!」

「お前達は昨日の……まだ我々に用事か?」

「そ、それが大変なんです!!グツグ火山の方に見た事もない魔物が現れて……鉱山に採掘に向かった俺達の仲間が酷い怪我をしたんです!!」

「怪我だと?」

「王子、イリアさんに診てもらいましょう!!」

「分かった、許可しよう」



鍛冶師達の話を聞いて怪我人がいると聞きつけたドリスは飛行船に乗っている薬師のイリアに治療をさせるようにバッシュに促し、飛行船の燃料を渡してくれた件もあるのでバッシュはイリアに治療を任せる事を許可した――

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