特別編第41話 《鍛冶師との交渉》

――回収できるだけのポイズンタートルの素材を運び終えた後、飛行船は次の目的地の途中にあるグツグ火山へ到着する。グツグ火山に暮らす鍛冶師達は山の麓に村を作り、そこに空を飛ぶ船が下りてきたのだから最初は騒動パニックを引き起こした。


飛行船から降りてきたバッシュは自分達が王都から訪れた事、そして現在は飛行船を使ってアチイ砂漠に向かっている最中だと伝える。彼はグツグ火山で採掘される火属性の魔石を分けてほしい事を伝えると、鍛冶師達は最初は難色を示した。



「いくらこの国の王子様の頼みと言えど、この火山で採れた物は俺達の物ですよ」

「確かに俺達はこの国に住まわせてもらっているが、こっちだって命懸けで火山から魔石を採掘してるんだ。そんな苦労して手に入れた魔石を無償で引き渡す事はできませんね」

「悪いんだが俺達の魔石が欲しければそれ相応の対価を支払ってもらいたい」

「ふむ……」



話し合いの場にてバッシュは厳つい顔つきのドワーフの鍛冶師達に囲まれ、彼等から飛行船の燃料となる火属性の魔石を引き渡す代わりに相応の対価を支払うように要求される。


仮にも一国の王子に対して無礼な態度を取る彼等に王子の側近は苛立ちを抱くが、ドワーフという種族は相手が目上の者であろうと自分に利益を与える相手で無ければ敬う事はない。それを知った上でバッシュは交渉材料として用意した代物を引き渡す。



「……それならば受け取った魔石の量の二倍ほどのミスリル鉱石を引き渡す、といったらどうだ?」

「ミスリル鉱石……だと!?」

「そ、それは本当ですかい?」

「馬鹿な、そんな量のミスリル鉱石を用意できるはずが……」



バッシュの言葉に鍛冶師達は驚愕の表情を浮かべるが、バッシュは側に控えていた側近の兵士に合図を出す。兵士は急いで建物の外に出ると、しばらくすると両手に巨大なミスリル鉱石を抱えたナイが部屋の中に入り込む。



「失礼しま〜す」

「うおっ!?」

「な、何じゃ!?」

「こ、これは……ミスリル鉱石か!?」



恐らくは100キロ以上はあると思われるミスリル鉱石をナイは軽々と持ち上げながら部屋の中に入ると、床の上に置いて鍛冶師達に見せつける。あまりの重量に床が軋むが、鍛冶師達は信じられない大きさのミスリル鉱石を見て動揺を隠せない。



「な、何と巨大な鉱石じゃ……こ、これを何処で手に入れた!?」

「そこまで教えるつもりはない。だが、これだけのミスリル鉱石があれば色々な物が作り出せるだろう?」

「む、むうっ……」



火属性の魔石とミスリル鉱石の価値はややミスリル鉱石が勝り、しかもバッシュの要求は自分達が用意したミスリル鉱石の半分の量の魔石の要求である。その事を考えれば鍛冶師達にとっては悪くない条件だが、話が上手すぎて怪しく感じてしまう。


しかし、今回の取引相手はこの国の王子であるため、商人や貴族などよりもずっと信頼における相手である。そもそも王族の権限を使えば強制的にグツグ火山に暮らす鍛冶師から資源を回収する事も不可能ではない。それにも関わらずにバッシュは鍛冶師達と対等な取引を持ちかけてきた事に鍛冶師達は思い悩む。



(おい、どうする?取引を引き受けるか?)

(馬鹿を言え、こんな都合の良い取引があるか。きっと裏があるんだろ……)

(だが、王族がわざわざ俺達の所まで訪れて騙そうなんてあり得るのかな?俺達を騙して得する事なんてないだろう)

(う、う〜ん……)



ドワーフ達は今回の取引の件について話し合うがまとまらず、どうするべきか思い悩む。そんな彼等の様子を見てバッシュはまた側近の兵士に指示を出す。



「ハマーンを連れて来い」

「はっ!!」

「ハマーン?それってまさか……あの王都の鍛冶師か!?」



ハマーンの名前を耳にした途端にグツグ火山の鍛冶師達は動揺を示し、やがてハマーンが部屋の中に訪れると彼を見て鍛冶師達は戸惑う。



「これはこれは久しぶりじゃな、グツグ火山の鍛冶師の諸君。儂の事を覚えているか」

「お、お前は……昔、ここに来たことがあるな」

「まさか、お前が王都で有名な鍛冶師の?」

「いったいどうしてお前がここに……」

「まあまあ、落ち着いて……それよりも儂の話を聞いてくれんか?」



かつてハマーンはグツグ火山の鍛冶師達と顔を合わせた事があり、彼の事を覚えていた鍛冶師達は王族と共に訪れた彼に驚く。しかし、ハマーンはそんな彼等に対して取引の交渉を行う。



「儂は今、王都で鍛冶師をしておることは噂で聞いた事はあるだろう?ここへ来たことに訪れた飛行船の設計も実は儂が関わっておる」

「な、何だと!?」

「あの飛行船を作ったというのか?」

「うむ、儂の生涯最高の作品といっても過言ではない」

「し、信じられない……!!」



飛行船を実際に目撃した鍛冶師達はハマーンが飛行船の開発に関わっていた事に驚きを隠せず、嫉妬と羨望の視線をハマーンに向ける。それほどまでに彼等にとって飛行船は素晴らしい作品だった。

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